2024年7月24日水曜日

簡単解説!21世紀のインフレ対策 | cargo official blog powered by ameba

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簡単解説!21世紀のインフレ対策

冒頭、少し難しい話をはさむが、我慢してほしい。
本日のテーマは「誰でもわかる21世紀のインフレ対策」だ。
たぶん誰でも理解できるはず。(たぶん)


現在、為替は1ドル154円を突破し歴史的水準で円安を行進し続けている。
この原因として「金融緩和し過ぎて円安が止まらなくなったんだ。円高のほうが良い!」とする言説が散見される。  

みなさん、いろいろと心配しているが、量的金融緩和では円の価値は毀損されないし、円安で通貨崩壊するなんてこともない。

日本銀行は2001年から2006年に、デフレ克服のために量的緩和政策を先駆的に導入していた(日銀政策審議委員・野口旭,2023)が、当時の為替はむしろ「1ドル121円→116円」と円高方面に動いていた。
「量的金融緩和すると円安になる」とする人達は、これがなぜなのか答えられないだろう。

現在の円安の原因は、短期視点では日米金利差の拡大によるもの、加えて長期視点ではファンダメンタルの弱さ、つまり日本の景気が悪いことが原因だ。

そして多くの人が「金利の操作」と「量的金融緩和」を混同している。
金利の操作とは、コール市場の無担保コールレートの調整(金融市場調整)を行うため、コール市場において金融機関の日々の短期的な資金の過不足を解消することであり、現在は資金(日銀当座預金)供給量が十分なため低金利になっている。このコール市場の金利が住宅ローン金利や銀行貸出金利の基準となってくる。
一方で、量的金融緩和は、マネタリーベースを爆発的に増やす(市中銀行保有の利付き国債を付利なしの日銀当座預金に置き換える)ことで実質金利を下げ、インフレ期待を上げることで市中銀行の実体市場への貸し出しを促すというものだ。
基本的には量的金融緩和は金融市場調整以上に買いオペするものだが、ゼロ金利以下になることがないため実勢の金利に大きな影響を与えるわけではなく、あまり意味がない(まったく効果がなかったわけではない)。
参考:日銀
https://www.boj.or.jp/about/education/oshiete/seisaku/b42.htm

どうだろうか、はっきり言って専門知識のない人にとっては何を言ってるのかさっぱりわからないと思う。

でも安心してほしい。
今回は金融政策に関わる難しい話は脇に置き、「一体どうやったら円安インフレを解消できるのか?」という処方箋の説明だけに注力しようと思う。

大丈夫。
斎藤幸平准教授は「解決策はない」と言うが、解決策はあるので心配には及ばない。
また、立憲民主党なんかが処方箋とする「利上げ」も必要ない。

(*共産党と斉藤准教授は「利上げできない」と理解しているのでまだマシ)

(*誤解なきよう最初に言っておくと、筆者は過度な量的金融緩和には反対だが金利はゼロに保つべき、今般のマイナス金利の解除、ETF買いの終了はやるべきだったがタイミングが悪かった、イールドカーブ・コントロールの終了は時期尚早、という立場だ)


インフレ対策の処方箋は、
「供給能力を上げろ」、
「的を絞った財政支出をしろ」、
「国民負担を軽減しろ」だ。


これはノーベル経済学賞受賞者のスティグリッツ教授やIMF主席経済顧問のブランシャール、米国の財務長官イエレン、米国の元労働長官ライシュ、またMMT派の提言を咀嚼しまとめた結果だ。

このことは以前こちらでも書いたが難しすぎるので、今回もっと簡略化したい。

さて、現在の日本の状況は、簡単にはこうなる。


円安や戦争、サプライチェーンの混乱(供給の制約)により輸入物価が上がり、インフレになったということだ。

マスクや給湯器、半導体、食料さえ自国生産していないことがこのインフレの原因ともなった。

物価が上がったため、表面的には需要が上がったように感じる場合もあるが、実質消費支出が12カ月連続マイナス実質賃金は23カ月連続でマイナスであることから依然として低需要であることは変わりない。

輸入物価高騰によるインフレを下げるには、政府が国民の負担を軽減するために消費税やガソリン税などを減税し、補助金を投じて電気・ガス代を安くすることが必要だ。(小麦などの輸入食糧の卸値を下げるべく補助するなども)

モノやサービスにかかる税金(消費税)や光熱費などを安くするんだから、必然的に物価が下がることが誰にでもわかるだろう。
負担を軽減できてインフレ対策にもなる一石二鳥の良策だ。

しかし現在、政府はこれらの施策をちょこっとやっているだけで、まったく足りていない状況だ。

根本的な話をすると、エネルギー価格や消費税を下げて人々の負担を軽減するほかに、悪いインフレ体質ではない経済を作るためには「供給能力」を上げる施策も大切となる。

インフレの圧力となっている要因を取り除くとともに、インフレに耐えられるよう経済のキャパシティを拡げるということだ。

では「供給能力を上げる」ってどういうことだろうか?
「供給能力を上げる」とは「生産能力を上げる」と言い換えられる。

まず、供給能力を上げるには同時に実質賃金も上げていかなければならない(というか結果的に賃金も上がってしまう)。

あなたの年収が400万円だったとして、毎年消費や税金で300万円使うとする。
インフレで物価が5%上がった場合、年収400万円のままなら315万円の出費になる。
これは大変だ。
でももし年収が6%増えるなら424万円になり、出費額が315万円のままなら去年より少し楽になる。

物価上昇分を上回る賃金が貰える経済構造を作らないと人々は生きていけない。

賃上げしたら需要主導のインフレになるんじゃないの?と思う人もいるだろうが、現在の日本はコストプッシュ・インフレと同時に、超低需要社会だ。少々賃金が上がっても悪いインフレにはならない。

オイルショックなどの過去のインフレ期には、インフレ率よりも賃金上昇率のほうが高かった、つまり実質賃金が年々高まっていた
この状態にしないと人々はインフレに耐えられない。


図:tasan氏 60年代・70年代に注目してほしい(*緑色の棒はインフレ率)

物価上昇分を上回る賃金が貰える経済構造を作るためにはどうしたらいいだろうか?

企業がより多くの賃金を払えるようになるためには、モノがたくさん売れないといけない。
モノが売れるには、人々の購買力がなければいけない。

人々の購買力を上げるには、エネルギー価格や税金を下げる必要がある。
これは先ほどの話と同じだが、インフレ対策にもなり、負担を軽減し購買力を上げることができる。
人々の出費額を減らして手元に残るお金を増やし、より消費できるようにしようということだ。
モノがたくさん売れるので企業はより多くの賃金を払えるようになるのだ。

そして人々の賃金を上げ同時に供給能力を上げるための、もう一つのやり方は「的を絞った財政出動」となる。

生産設備の国内回帰を促す。
公務員を増やす。
公共事業を増やす。
政府調達品を増やす。
公定価格(政府が発注する仕事の値段)を上げる。
非正規公務員を正規化、または同一労働同一賃金にする。
能登の復興にお金を出したり、防災のためにお金を投資する。
再エネを増やすため小型水力発電や洋上風力・地熱・潮力・太陽光発電などにお金を出す。(メガソーラーはダメ)

地方交付税交付金を増やす。
労働組合や中間団体を支援する。
デジタル化を促す。
(*過度なインフレを防ぐための累進税性の強化も必要だ)

こうやって供給能力を上げなければならない。
そうすると政府関連事業に就く人を中心に2000万人くらいの所得が上がって消費が増える。

消費が増えるとモノがよく売れる。企業が儲かる。
企業が儲かると人件費、つまりあなたの賃金が上がる。

好景気になると、企業は雇用も増やす。
そして設備投資をして事業を拡大しようとする。

生産設備が増えて、生産する人が増える。
これこそが供給能力の拡大だ。



https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12804291073.html

供給能力の拡大とは、企業がたくさんモノを作れること、たくさん賃金を払えるようになること。たくさんの雇用を生み出すことだ。

供給能力が拡大すると、企業はあなたの年収を400万から424万にすることができる。
少々インフレになっても、より高い賃金を払えるのでもう問題にはならない。

その時には供給能力が強化され悪いインフレが起こりにくい体質になっているので、多少の需要が増えても吸収できるというわけだ。
インフレにビビッて人々の賃金を上げない社会は、不景気でモノが売れず設備投資もされず、結果的に供給能力がひっ迫したままになってしまう。


だから「円安でインフレになったから円高にするため利上げしなきゃいけない!」って言う人は間違っている。

そんなことしたら住宅ローンや銀行貸出の金利まで上がって企業がお金を借りなくなり、設備投資もしなくなるので、供給能力が減って賃金が減ることだってある。
インフレに耐えられなくなって、余計に経済が悪くなる。

今金利を上げることは、インフレを抑制するかもしれないが、雑なかたちで需要を減らすことになり、企業や人々を苦しめることになるのだ。


繰り返しになるが、だから、人々の負担を軽減するよう減税やエネルギー価格を下げるため財政支出しよう。

エネルギー価格の高騰を抑えるために再エネ分野に財政支出しよう。
輸入物価高騰の大きな原因となっている原油やガスの輸入に頼らない構造を作るのだ。

そして人々の賃金を上げ、消費を増やし、供給能力の強化につながるよう財政支出しよう。


好景気になって、あなたの労働力やあなたが生産する商品に高い価値がつけられると円の価値も高くなる。

円の価値は、基本的にはドルの価値と相対的になっている。
現在アメリカは好景気で賃金や商品価格も上がっていく状況で、また金利も高い。
好景気だから投資家が円をドルに替えて投資するため、円が安くなりドルが高くなっているのだ。

日本が好景気になり、賃金や商品価格が上がればおのずと金利も上げられるし、逆にドルを円に両替して投資する投機家も増え、いずれ過度な円安は是正される。

これが「21世紀のインフレ対策」となる。

以上。

cargo


捕捉:
よく「現在は完全雇用状態だからいたずらに政府支出したらすぐに供給制約がきてインフレになる!」とする主張を目にするが、ご心配には及ばない。

日本には完全失業者は少ないが、低賃金の非正規雇用が全労働者の40%もいるため、賃金を上げる余地があり、そのぶん供給側も伸ばすことができる。(上図でいうとAD曲線が右肩上がりにシフトする余裕がまだある)

また、人手不足の現在は人的リソーズの供給が限界にあるという主張もよく聞くが、まともな賃金(decent wages)を払える企業が増えれば働く人も増えるし労働移動も起こるだろう。

望む人がまともな賃金を貰える状況になるまでは真の完全雇用とは言えないのだ。

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