2024年8月28日水曜日

TPP亡国論の中野氏「正しい意見は嫌われる」 | 日経クロステック(xTECH)2024年8月28日

TPP亡国論の中野氏「正しい意見は嫌われる」 | 日経クロステック(xTECH)

TPP亡国論の中野氏「正しい意見は嫌われる」

評論家 中野 剛志氏(前編)

第7回

全5319文字

経済産業省で官僚を務めながら、評論家・思想家として幾つもの著書を著している中野 剛志氏。独自の経済論で日本経済再生の道筋を説く。なぜ日本は失速し、回復できないのか、正しいことを見極めるにはどうあるべきなのか──。ベストセラー『TPP亡国論』の著者でもある中野氏と語り合った。(聞き手は松本 晋一=オーツー・パートナーズ代表取締役社長、文:渡辺 典子=ライター)

松本氏:中野さんは経済の本もたくさん書かれています。2024年前半は円安が進み、1米ドル200円説まで出てきました。円安についてどうお考えでしょうか。

中野氏:目の前の事象としては、世の中で解説されているように、日米で金利差があり、金利の高いほうにお金を吸い上げられて円が安くなり、輸入品が高くて苦しいという話です。これを是正するには金利差を縮めればいいのですが、日本は実質賃金が下がっていて金利を上げられません。

 では、どうすればいいのか。こういうときはまず、アメリカがどうして金利を上げたかを考えます。それはインフレになって景気が良くなりすぎたから。なぜそうなったのかというと、新型コロナ禍明けにバイデン政権が誕生したときに、巨額の財政出動をして金利を上げざるを得ないほど景気が良くなったからです。そうだとすれば、日本も同じように、まず財政出動をして、景気が良くなれば金利を上げられます。

評論家 中野 剛志氏

評論家 中野 剛志氏

1971年、神奈川県生まれ。元京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治思想。1996年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年に同大学院にて優等修士号、05年に博士号を取得。論文 "Theorising Economic Nationalism" (Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prize を受賞。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞受賞)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『日本の没落』(幻冬舎新書)など多数。(写真:飯村 潤)

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松本氏:日本は財政出動をしてこなかった、あるいは規模が小さいのですか。

中野氏:規模が小さいですし、そもそも日本は過去20年間の財政支出額の伸びが先進国の間で最も低いというデータもあります。確かに、日本は景気が悪くて税収が減り、財政赤字が拡大しています。それは財政出動でお金をばらまいても景気が良くならなかったからではなく、財政出動が足りないから経済成長せず税収が減ったからなのです。それなのに日本では、財政赤字を増やせないから財政支出はできないと誤解し、蓋をしてしまう。それで景気が悪いまま、金利も上げられないのです。

財政再建が先か、景気活性化が先か?

松本氏:アメリカでは財政出動の結果、税収は増えたのでしょうか。

中野氏:増えましたし、アメリカでは日本と違って、物価だけでなく実質賃金も上がっています。

松本氏:中野さんは著書の中で、デフレ下でインフレ対策はおかしいと一貫しておっしゃっています。なぜおかしいままなのか。閉じられた空間にいる識者たちが古典的経済学の論理だけで判断しているからでしょうか。

中野氏:そういう人たちが大学で教えて、それをみんな学び、マスコミもそのまま流しています。

松本氏:その教えはアメリカなど他の国で行われていることと真逆に見えますが。

中野氏:日本に限らず、世界中で間違った経済学が主流派として広まっています。だから、どこの国でも、間違った経済学が広まった80年代以降、成長率が落ちました。アメリカでは格差が拡大し、ヨーロッパもうまくいっていない。日本はバブルが崩壊してまずい時期に、間違った経済学をうのみにし、特にひどい状況です。

 ただ、日本がデフレ下で消費税を5%から8%、10%と上げていったときに、ノーベル経済学賞をとったジョセフ・スティグリッツ氏やポール・クルーグマン氏、アメリカ経済学会会長もつとめたオリヴィエ・ブランチャード氏など、主流派の大御所ですら全員「やめろ」と反対しました。

松本氏:景気が冷え込んでデフレが深刻化する。それよりも消費を喚起して、インフレに持っていくべきだということですね。

中野氏:そうです。デフレ下で増税や緊縮財政をしてはいけないし、そもそもデフレにしてはいけない。異端派を支持する私から見ると「間違っている」主流派の経済学ですら、そこは常識です。

松本氏:当時、増税に踏み切った理由は、デフレうんぬんよりも、国の財政が厳しいから増税しないと、将来に負の遺産を持ち越してしまうという論調でした。

中野氏:財務省、財政再建派の政治家、主流派の経済学者はそう主張し、大半の人は無駄なばらまきのせいで財政赤字になったと考えていました。

第8回

全4934文字

イノベーションは大企業のほうが起こしやすい──。評論家・思想家の中野剛志氏はこう主張する。イノベーションを起こすのに必要な視点、考え方とは何か。日本の企業には何が欠けているのか。ベストセラー『TPP亡国論』の著者でもある中野氏と語り合った。(聞き手は松本 晋一=オーツー・パートナーズ代表取締役社長、文:渡辺 典子=ライター)

松本氏:中野さんの本を何冊も読みましたが、特に記憶に残ったのがイノベーションの話です。イノベーションを起こす場合、スタートアップよりも大企業のほうがいいとおっしゃっていますよね。

中野氏:ラジカルなイノベーションには、どうしても人手、時間、資金が要ります。その全てで不利な状況にあるスタートアップのほうが、イノベーションを起こせるというのはよく理解できません。

評論家 中野 剛志氏

評論家 中野 剛志氏

1971年、神奈川県生まれ。元京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治思想。1996年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年に同大学院にて優等修士号、05年に博士号を取得。論文 "Theorising Economic Nationalism" (Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prize を受賞。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞受賞)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『日本の没落』(幻冬舎新書)など多数。(写真:飯村 潤)

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大企業のほうがスタートアップよりイノベーションで有利

中野氏:一般的に言われるのは、大企業はいろいろとしがらみがあって、稟議(りんぎ)を通すのも大変で、説得に時間がかかることです。では、スタートアップにそういう苦労がないかというと、もちろんあります。キャピタリストを説得してお金を集めたり、取引先やお客さんを説得したりしないといけない。同じ組織であれば価値観を共有していますが、そういうものがない状態で、社外の人に信用してもらうほうがはるかに大変です。

 それから、イノベーションには人と人のつながりや出会いが必要です。例えば、会計と物理、ものづくりとデジタルというように、得意分野やキャラクターが違う人を組み合わせたほうがうまくいきます。大企業にはいろいろな部門があって異動もするので、新しい異分野融合が起きることもあるし、社内の人脈も使えます。

 つまり、イノベーションを起こすために必要とされる環境は、組織の中に既にデフォルトとしてあるわけです。それなのに、なぜスタートアップのほうがイノベーションを起こせると思うのか。もっと言うと、スタートアップのほうがイノベーションを起こせるなら、どうしてGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)は自分たちをさっさと解体しないで、巨大なままなのか。それは、巨大なままでいたほうが、大きなリスクをとれるからです。大きくリソースを投入して、たとえ10年間赤字だったとしても、ちょっとやそっとではつぶれませんから。だから、イノベーションも起きやすいはずです。

松本氏:中野さんは、特許件数ではなく、イノベーションに貢献した特許の質で見ると日本は強くて、そういうネタやきっかけは大企業がつくっていると指摘しています。実際に、日本のスタートアップはそれほど新しいものを生み出せていません。しかし、アメリカの一部のスタートアップは生み出せています。

中野氏:それは一部の話で、たいてい大企業でノウハウや人脈をつくった中年の人がスピンオフして起業しています。技術自体も大企業で築いたものというケースもあります。そもそも人脈を築いて、いろいろな人とアイデアを混ぜるのが大事だからこそ、シリコンバレーに集まった起業家が多いのです。だとすると、やっていることは大企業の中でしていることと同じで、仕事が終わったら、みんなで一緒に飲みに繰り出します。

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