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「経済学は腐りかけている」評論家・中野剛志氏が主流派経済学への批判を続ける理由(JBpress) - Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/articles/2b00f2dfab679df04380fbac9a8bcf605a021dba?page=1「経済学は腐りかけている」評論家・中野剛志氏が主流派経済学への批判を続ける理由
インタビュー前編では、主流派経済学の矛盾点について、哲学的な観点から評論家の中野剛志氏が解説した。ただ、致命的な欠点がありながらも、主流派経済学は経済学の中で長らく主役の座に居座り続けている。主流派経済学はなぜ「主流」で居続けられるのか、異端派経済学が主流派経済学にとって代わる可能性はあるのか──。『政策の哲学』(集英社)を上梓した中野氏に、引き続き話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター) 【写真】主流派経済学を築いたミルトン・フリードマン 【前編】主流派経済学には「哲学」がない! 『政策の哲学』の中野剛志氏が矛盾だらけの主流派経済学を斬る ──主流派経済学に対して、いわゆる異端派経済学はどのような学問なのですか。 中野剛志氏(以下、中野):異端派経済学と一言に言っても、ポスト・ケインズ派、制度派、マルクス主義経済学、オーストリア学派、社会経済学、フェミニスト経済学などさまざまな学派が存在しています。 これら異端派経済学に共通していることは、「現実とは何か」「現実的な社会とは何か」「現実的な人間とは何か」を突き詰めて議論している点です。もちろん、学派が違えばその切り口も異なりますので、論争が起こることもあります。 それでも、この複雑怪奇な経済の真理を追究しているという意味で、異端派経済学は「科学」です。 そもそも、経済学者の祖であるアダム・スミスは哲学者です。20世紀前半頃までは、経済学は政治学や社会学とも密接につながっていました。経済は人間の活動の一つですので、政治や社会の文脈で議論する必要があったためです。 ──主流派経済学は、いつ、どのようにして登場したのでしょうか。 [24:30] 中野:1980年代以降、経済学界において支配的になりました。 第二次世界大戦終結後、経済学の理論はケインズ主義的な考え方が主流でした。ただ、それは方法論的個人主義のような前提に則って、ケインズ的な理論を展開する「ケインズもどき」とも言えるような学派でした。つまり、ケインズ自身の理論とはまったく別物です。 この「ケインズもどき」は1970年代に発生したオイルショックによるインフレを説明したり、処方箋を与えたりすることができず、経済学界における支配的地位を失いました。 代わって注目を集めたのは、ミルトン・フリードマン率いる新古典派経済学です。これが今の主流派経済学へと発展し、学界や政策担当者の間に広く浸透していったという流れです。 ──主流派経済学は、1970年代のインフレを解決できたのでしょうか。
■ 主流派経済学のテンプレート 中野:主流派経済学が解決したとは言い切れません。 主流派経済学は、インフレを抑える手段として金融引き締め政策を採ります。1980年代初頭、アメリカの中央銀行にあたるFRB(連邦準備理事会)は金融引き締めを実施し、実際にインフレは終息しました。けれども、インフレの終焉が金融引き締め政策の成果であるか否かは不明です。 さらに言うと、金融引き締めによって失業率は爆発的に上がりました。失業者という大量の犠牲を生じさせてインフレを抑えたのだとしても、果たしてこれを成功と呼べるのでしょうか。 ──2021年頃から世界的なインフレが始まり、各国の中央銀行は金利を引き上げています。 中野:主流派経済学のテンプレート通りの対応だと思います。 主流派経済学では、物価が上がれば金利を上げる、物価が下がれば金利を下げるというテンプレートがあります。そのインフレやデフレがどのようにして起こったのかをしっかりと見ることもなく、ただただそのテンプレートに沿って金利の上げ下げをしているに過ぎません。 主流派経済学の提供するテンプレートは非常に理論的に見えますし、誰でも簡単に使えるお手軽なものです。また、そのテンプレートさえ知っていれば、現実の社会や人間の複雑さを考慮することなく、それらしく経済を語ることができます。これこそ、主流派経済学が人気を博している理由に他なりません。 今回のインフレは、パンデミックによるロックダウンが明けて需要が急増したこと、ロシアによるウクライナ侵攻で食料やエネルギー価格が高騰したことなど、さまざまな要因が複雑に絡み合って生じたものです。 消費や投資が拡大して賃金が上がっていくような状態でインフレになった場合、金利の引き上げはインフレ対策として有効かもしれません。けれども、ロシアのウクライナ侵攻がきっかけで起こったインフレを、果たして金利を上げただけで解決できるのでしょうか。 医学であれば、発熱があった場合、風邪なら風邪、虫歯なら虫歯と原因を特定して治療するのが当たり前です。虫歯だろうが風邪だろうが、発熱なら全部一緒だろうと、同じ治療を施されたらたまったものではありません。 ところが、主流派経済学は実際にそんなとんでもない処置をしています。
■ 主流派経済学者による査読論文の「クレンジング」 中野:今回のインフレは、さまざまな要因が複雑に絡み合って生じたと言いましたが、それを一つひとつ解きほぐして分析していくには、膨大な労力を要します。 また、分析の結果、ロシアによるウクライナ侵攻がインフレの主要因であることがわかり、侵攻を辞めさせるのが適切な処方箋であるという結論に達するかもしれません。でも、それを実行に移すのは容易なことではありません。 そういった現実の難しさや複雑さは理解すること自体が困難であることが多々ありますし、理解できたとしても認め難いもの、容易な解決が望めないものかもしれません。 主流派経済学は、このような複雑な現実、難しい現実から目を逸らし続けています。そんな状態であれば、もう社会科学なんてやめてしまったほうがいいと思います。現実を直視しようとしない政策担当者も「この国をこうしたい」などという戯言は言うべきではないでしょう。 ──わかりやすいテンプレートを提供する以外に、主流派経済学が「主流派」たり得ている理由はありますか。 中野:ある学問で特定の学派が一度支配権を握ってしまうと、その学派の理論に沿う内容の論文でなければ、学術雑誌に掲載されなくなる傾向があります。 学術雑誌に論文を掲載してもらうには「査読」というプロセスをパスしなければなりません。「査読」では、その学問に精通した学者が論文の内容を精査し、雑誌に掲載するか否かを判断します。 現在の経済学では主流派経済学が支配的です。ほとんどの学術雑誌で査読を担当するのは主流派の経済学者です。主流派経済学以外の理論で書かれた論文は、査読でふるい落とされます。 研究者の評価は、学術雑誌に掲載された論文の本数や内容で決まります。就職先も、その評価に左右されます。査読をパスしなければ、論文が学術雑誌に載ることはありません。実績がなければ、研究者としての就職の道は閉ざされてしまいます。異端派経済学では、就職すること、研究者になることが難しいのです。 この査読のふるい落としを、ある若い経済学者は「クレンジング」と呼んでいました。 主流派経済学の理論が誤っていて、異端派経済学の理論が正しいのであれば、異端派経済学が主流派にとって代わるのが自然なのではないかと思う方もいるでしょう。けれども、論文の査読で「クレンジング」されている限りは、異端派は異端派であり続けるのです。 実は、これは日本だけの話ではなく、ここ20年ほど、一部の経済学者たちの間で問題視されていることです。
■ 腐りかけている経済学 ──ほかの学問でも同じようなことは起こっているのですか。 中野:起こっていても不思議ではありません。ただ、経済学が最も顕著に主流派が力を持っているという構造になっているように思います。 ──経済学という学問では、なぜ顕著に主流派が長らく支配的な状況にあるのでしょうか。 中野:わかりません。ただ、主流派経済学の理論は、資本家や資産家に有利なものです。 自由市場のメカニズムに任せて、経済に対して国家が関与しないほうが、資本家にとって都合が良いため、経済学において主流派経済学が長らく支持されているとする説もあります。 国家が経済に手出しをしなければ、弱肉強食の競争社会が正当化されます。労働者たちは保護されなくなり、賃上げは起こりません。資本家にとって好都合な状態です。 資本家は政治的な影響力を有しています。また、彼らは大学や研究機関に寄付することもあります。自分たちに都合の良い理論を主張してくれる主流派の経済学者の研究に積極的に投資することも可能です。 この点に関して、私はきちんと調べたことはありませんが、確かにそういう見方もできると思う節はあります。加えて、先ほど説明したように、お手軽なテンプレートを提供してくれるという観点からも主流派経済学は重宝されていると感じています。 現在の経済学の有り様は、個々人の地位や権威、利害関係によって、学問やイデオロギーが歪むということを語っています。非常に恐ろしいことだと思います。 学問や科学、知識は、簡単に腐ります。特に、学問が大衆化して社会に影響を与えるようになるにつれ、その学問を律するルールはどんどん緩んでいきます。こと経済学に関しては、今やルールは緩みっぱなしで経済学自体が腐りかけていると言ってもいいでしょう。 腐った学問や哲学は、人を不幸にすることを忘れてはならないと思います。 中野剛志(なかの・たけし) 評論家 1971年神奈川県出身。専門は政治経済思想。東京大学教養学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学。同大学院にて2005年に博士号を取得。2003年に論文 ‘Theorising Economic Nationalism’ (Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。 関 瑶子(せき・ようこ) 早稲田大学大学院創造理工学研究科修士課程修了。素材メーカーの研究開発部門・営業企画部門、市場調査会社、外資系コンサルティング会社を経て独立。YouTubeチャンネル「著者が語る」の運営に参画中。
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