岩田規久男氏「どうして日銀は焦って決めた?」
「緩和に戻れば信用失う」と懸念する元副総裁
――2%の物価安定目標は本当に実現できたと思いますか。
黒田総裁、私の副総裁の時期に始めた異次元緩和政策は、二度の消費税引き上げという逆風に見舞われたものの、雇用環境の改善などで優れた効果を上げた。今は日本の「デフレマインド」も解消している。
「デフレマインド」の解消に日本経済は長いこと苦しんだ。デフレマインドの下で企業は、価格や賃金を「他社が引き上げなければ、自社も引き上げられない」という膠着状況に陥る。
しかし、2022年のウクライナ戦争を機に原材料価格が急上昇したことで、「他社も値上げしないとやっていけないはずだ」という確信を日本企業は得た。コスト高に突き動かされた「コストプッシュ」の形だが、この時点でデフレマインドはなくなっていた。
「結果オーライ」を願うしかない
今はコストプッシュ型のインフレも収束してきており、企業業績の改善が幅広い賃上げにつながり、需要拡大に促されたインフレに移行するかどうか、といったところだ。つまり、コストプッシュ型からデマンドプル型インフレへの移行期であり、それをより正確に確認するうえでは、中小企業も含めた賃上げ動向もしっかり見る必要があった。
今回の解除に併せて日銀は「わが国経済・物価を巡る不確実性はきわめて高い」という経済・物価見通しのリスクに関するコメントも発表していて、私は当惑した。それならば、やはりもう少し様子を見てもよかったのではないか。
こうした大きな政策転換は一度やってしまうと容易には引き返せない。経済見通しが下振れたら、もう一度緩和に舵を切ればよいと日銀は思っているようだが、そんなことをすれば世の中から「迷走」と見られて、信用が失われる。
だから出口はできる限り慎重に進むのが肝心。その引き返せない判断を、十分なデータがそろう前に拙速に行ってしまったのだから、日銀は「結果オーライ」を願うしかない。
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