2025年4月28日月曜日

無税国家は雑な論理だと言う無税国家不可能論に対して反論する~MMTの租税貨幣論の正しい捉え方で無税国家は論理的には実現可能である~|池戸万作@政治経済評論家

無税国家は雑な論理だと言う無税国家不可能論に対して反論する~MMTの租税貨幣論の正しい捉え方で無税国家は論理的には実現可能である~|池戸万作@政治経済評論家

無税国家は雑な論理だと言う無税国家不可能論に対して反論する~MMTの租税貨幣論の正しい捉え方で無税国家は論理的には実現可能である~

 私は兼ねてから無税国家は可能であるという主張を繰り返している。それに対して、無税国家は可能というのは雑な論理だとのお叱りの声を積極財政派からも頂いたので、今回はその声にお応えして、逆に積極財政派なのに無税国家不可能論こそ雑な理論ではないかということを述べていきたいと思う。
 なお、良く勘違いされがちではあるが、私自身は、無税国家は可能であると言っているだけであって、決して無税国家は好ましいとは考えていない。何故ならば、税金とは政府の財源ではないが、税金は格差を是正するために必要ものであるからだ。中間層以下は一切の無税でも良いと考えるが、富裕層には税金を課すことで格差を是正すべきである。
 もっと言うと、富裕層にまで無税にしてしまうと、より一層、富裕層のお金の力によって、政治権力が富裕層に集中してしまうのではないかという民主主義への危機感から富裕層課税は必須のものであると考える。要は富裕層が持つお金の力によって、政治が支配されてしまうということだ。そうした富裕層への権力集中を抑制するために、富裕層のお金を間引くというのが、実は税金の役割なのである。

 さて、無税国家不可能論については、大きく次の2つの観点から述べられていると言えるだろう。1つ目は無税国家にするとインフレが加速してしまって、ハイパーインフレになるという論理である。もう一つはMMTの租税貨幣論の観点から無税国家にすると、誰も通貨を使わなくなり、通貨が紙屑になるという論理である。今回はそれぞれの無税国家不可能論に対して反論していきたい。

・インフレ率を加速させないで無税国家にする方法

 まず、無税国家論への最もポピュラーな反論として挙げられるのが、無税国家にするとハイパーインフレになる論である。しかし、この論理に対しては本noteの初回の投稿にて、内閣府の計量シミュレーションモデルの試算を用いて、無税国家にしても言うほどインフレにはならないことを既に論じた。
 日本の国税に限って言えば、国税収入は約65兆円ある。この税収を0円にする場合、まず「財源はどうするのだ!?」と言われそうだが、財源は65兆円分の国債発行をすれば良いだけである。それに対して「将来世代にツケを残すのか!」と反論して来るのであれば、だったら日本銀行が同額の国債を市中から買い入れてしまえば、将来世代のツケは生じない仕組みとなっている。国債の返済期限が到来したら、新規国債への借り換えを政府と日銀の間で未来永劫続けるだけだ。また、日本銀行による国債の買い入れを行ってもハイパーインフレになるどころか、インフレにすらならなかったことは既にアベノミクスの異次元の金融緩和で実証済みとなっている。
 
 それで65兆円と聞くと、物凄く巨額の減税額に思えるかもしれないが、日本のGDPは540兆円もある。それに対して、65兆円分の減税をしても、GDP全体から見れば12%程度の金額に留まるレベルである。その程度の金額を減税したところで、年率13000%のハイパーなどは到底起こり得ない。全てが価格に転嫁したとしても年率12%のインフレ上昇に留まるレベルだ。
 しかも、実際のところは内閣府の計量モデルでも示されている通りに、減税分全てがインフレに転嫁されるわけではない。当然、供給能力の余剰もあるであろうし、所得税などは減税された分が消費ではなく貯蓄に回ってしまえばインフレに転嫁されることも無いのである。だから、無税国家にしてもインフレ率は2~3%程度の上昇に留まるというのは妥当な線であると言える。無論、ここに地方税や社会保険料まで含めれば、さらに金額は大きくなるので、よりインフレ率は上昇するであろうが、それでもハイパーインフレと呼ばれる13000%までは金額的には到底達し得ないのである。
 
 さらに無税国家を可能とするのに、より急激なインフレを引き起こさないようにする確実な方法がある。それは無税国家に向けて、毎年数%ずつ徐々に減税していけば良いのである。その時の供給能力に合わせた形で減税を行っていけば、高インフレを引き起こすことなく、納税する金額も減って行き、最終的には無税国家を実現することが出来る
 恐らくこの手法を用いれば、20~30年以内には世界各国で無税国家を誕生させることも可能ではないだろうか。インフレ率は需要と供給の関係で決まるのだから、これからAIやロボット化によって、格段に供給能力が引き上がって行くことも更に加味すれば、より一層、無税国家は現実味を帯びてくることになるであろう。
 この理屈に対しては、少なくともMMTの貨幣論を理解した積極財政派であれば反論は出来ないのではないだろうか。ただ、MMTの貨幣論を理解した者であれば、恐らく次のように言って来るであろう。「租税貨幣論に基づき無税国家は不可能である」と。次はこの租税貨幣論に対して反論をすることで、無税国家が可能であることを述べていきたい。

・MMTの租税貨幣論は税金が無くなれば貨幣が駆動しなくなることまで言えるのか

 MMTが強く主張する「租税貨幣論」とは、政府が国民から税金を徴収することで、その国の貨幣が駆動、流通する裏付けとなるという論理である。MMTは貨幣の仕組みなどは事実に基づいた記述が多く見られるので、ちゃんと理解出来る者であれば全く反論の余地があるものではないが、この「租税貨幣論」に関しては、あくまでも一つの「仮説」に留まるものではないかと考えられる。本当に租税が貨幣流通の裏付けになっているのかを言い切ることは難しい。また、仮に言えるとしても、それは十分条件であって必要条件には果たして成り得るのだろうか。あくまでも、租税とは貨幣を駆動させる一つの要素であり、貨幣を駆動させるのには他にも様々な要因が絡んでいるというのが妥当な見方ではないかと私は考える。
 そう考えれば、税金が無くなれば貨幣が駆動しなくなるという必要条件化された租税貨幣論まで成立し得るのかは非常に怪しい。そして、この理論はより現実的な側面から見れば、様々な突っ込みどころが生まれて来る。

 まず、第一に無税国家にした瞬間にその国の全ての人々が、自国通貨を使わなくなるなんてことは、果たして現実的に起こり得ることなのだろうか。今まで使っていた自国通貨を無税国家が成立した瞬間に国民が放棄することなど普通は考えられないのではないか。
 また無税国家にした瞬間から自国通貨を手離さなくても、徐々に外貨が流通するようになるとMMTerは述べていたが、それにも懐疑的である。無税国家にした後には、お店などで日本円だけでなくドルなどの外貨決済が導入されるようになるとでも言うのだろうか。
 もっと言うと、無税国家になると外貨が流通するようになるということだから、この理屈では自国通貨が安くなって場合によっては通貨の暴落も起きるということになる。MMTでは財政赤字は問題ない、財政支出の唯一の制約はインフレだと主張して来たわけであるが、無税国家では自国通貨が暴落するとなると、MMTには実はインフレ以外にも、為替レートという新たな制約が誕生することにもなってしまう。
 そういう意味で、MMTの唯一の制約はインフレと、無税国家では自国通貨が暴落というのは、矛盾した論理になってしまうのではないかと指摘したい。MMTerは無税国家のことになると、何故か財政破綻論者と同じような態度を表してしまっているように映るところではある。

 さらに無税国家になれば外貨が流通して自国通貨が暴落すると言うのであれば、では無税国家ではなく人頭税1円国家であれば、引き続き問題なく自国通貨は流通することになるのだろうか。租税貨幣論の観点で言えば、1円でも税金があれば、税は貨幣を駆動させると言えてしまうのではないだろうか。もし、1円ではダメだとMMTerが言うのであれば、では納税額がいくらならば貨幣は駆動するのか、1万円ならばOKなのか、10万円ぐらい取らないと貨幣は駆動しないのかといった、いよいよ納税額という金額ベースの話にもなって来る。もっと言うと、全国民が納税しなければ貨幣は駆動しなくなるのか、例えば日本国民のうち1億人が一切税金を納めなくても、残りの高額所得者の2000万人さえ納税すれば貨幣は駆動するのか。納税者の人数は上記の例の2000万人よりも、もっと少人数でも貨幣は駆動するのかという、納税者の割合や人数の話にもなって来るのである。

 以上のように、租税貨幣論を税金が無くなれば貨幣は駆動しなくなる論理と捉えると、様々な懐疑点や論理に綻びが見えて来るものとなる。そのようなことを踏まえると、やはり租税貨幣論とは税金は貨幣を駆動させる一つの要素に過ぎず、仮に無税国家になっても貨幣は駆動し続けると捉えるのが妥当ではなかろうか。もし無税国家になった場合、インフレの上昇以外に、一体どのような問題点が生じると考えるのか、MMTerは明確に示してもらいたいものである。

 最後に、これまで述べてきた無税国家不可能論に対する反論をまとめると下記の通りとなる。

・無税国家にするとインフレ率が高くなる!
→その時の供給能力を鑑みながら、徐々に減税をしていけば、高インフレになることなく、数十年後には無税国家が現実のものとなる。

・MMTの租税貨幣論から無税国家にしたら貨幣が駆動しなくなる!
→租税貨幣論は、税金は貨幣を駆動する一つの要素と捉えるのが妥当であって、無税国家になったら貨幣が駆動しなくなる論理ではない。無税国家を否定する論拠としては乏しい。

・池戸万作は無税国家にせよと主張している!
→私は、無税国家は論理的に「可能」と言っているだけであって、実施すべきとは言っていない。むしろ、富裕層や大企業に対しては公正な民主主義の実現という観点から、現在よりも税負担を重くすべきだという主張をしている。

 以上のように、無税国家の実現は可能である。しかし、無税国家は決して好ましいことではない。これが私の見解である。また、無税国家は雑な論理だと切り捨ててしまって無税国家の実現可能性を一切考察しないことこそが、雑な論理に陥ってしまっていないかということも、最後に付け加えて申し述べておきたい所存である。

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2025年4月27日日曜日

【神動画】モズラーと読み解くMMT(2025年1月18日)パート1/3|🦉ゲーテちゃん🦉

【神動画】モズラーと読み解くMMT(2025年1月18日)パート1/3|🦉ゲーテちゃん🦉

Unraveling the Mysteries of Modern Monetary Theory with Warren Mosler https://youtu.be/C9DJEG4qWKk?si=pFsGvTbGiF4dpmMr @YouTubeより
2022/01/18

https://note.com/goetche_chan/n/nc2c320f29b9e

【神動画】モズラーと読み解くMMT(2025年1月18日)パート1/3

見出し画像

(編集後記:やっぱ90分動画を3分割って長すぎたのでパート2からは5分割にしたよ!→パート2/5

1月18日に投稿された、MMTの父ウォーレン・モズラー出演の動画。MMTのコアな考えというか、モズラーの考えを理解するのに絶好の「神動画」だったので、以下の通り分割して紹介したい。(英語で実際の動画を見たい人はこちら。見出しや太字、画像などは訳者が付したもの。)


「ウォーレン・モズラーと読み解くMMTの謎(Unraveling the Mysteries of Modern Monetary Theory with Warren Mosler)」(2025年1月18日)

画像

[00:00:00]〜[00:01:08] (省略)

冒頭部分

[00:01:08]

アダム・バトラー(MC):
皆さんようこそ!今日はモダン・マネタリー・セオリー(MMT)の創始者として広く知られる経済学者であり、金融の専門家でもあるウォーレン・モズラーをお迎えしています。
彼は1982年にイリノイ・インカム・インベスターズという投資会社を設立し、1997年まで債券運用で世界トップクラスの実績を残しました。
モズラー氏はその豊富な市場経験をもとに1990年代初頭にMMTを発展させ、現代の通貨制度がどう機能しているのかを根底から見直しました。
現在は米領ヴァージン諸島セントクロイ島に在住し、Valence Company Inc.を経営。経済政策の議論に今なお影響を与え続けています。
モズラー氏は「十分な政府支出で対処できないほど深刻な金融危機は存在しない」とする「モズラーの法則」でも知られており、代表的な著書『経済政策における命取りに無邪気な七つの嘘』は多言語に翻訳され、スイスのフランクリン大学から名誉博士号を授与されています。
ウォーレン、本日は出演してくれて本当にありがとう!

ウォーレン・モズラー:
こちらこそ、紹介ありがとう。

アダム・バトラー:
実はね、番組に出てほしいと思ったきっかけは、ケイマンでPJピエール(MMT派の金融トレーダー。Xアカウント:@TatianaPierre)と会ったときなんだ。イベントで一緒に座っていて、「PJはモズラーのもとで学んでたんだ」って聞いて、「そりゃ聞かにゃ!」って感じで、質問攻めにしたんだ(笑)それが縁で、今回の企画が実現したってわけ。

ウォーレン・モズラー:
なるほど、それはいいきっかけだったね。

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左からアダム・バトラー、ウォーレン・モズラー(音質改善して…)、リチャード・レーターマン

MMTは何が違うのか?変動相場という新世界

[00:02:42]
アダム・バトラー:
今日はリチャード・レーターマンも来てるよ。彼は僕らReSolveのポートフォリオマネージャーで、政策とか経済に洞察があるゲストが来るときはよく参加してくれるんだ。
それじゃ本題に入ろう。ウォーレン、MMTについてまだあまり馴染みがない人のために、「モダン・マネタリー・セオリーって何なのか」、そして「どうしてそれが従来の経済学と違うのか」ってところを、まず教えてくれるかな?

ウォーレン・モズラー:
ああ、もちろん。
私がずっと感じてるのはね、今でも多くの古典派経済学って、実は固定為替相場を前提にしてるってことなんだ。
でも現実は、ほとんどの国が変動為替相場に移ってるだろ?
だから、昔の理論をそのまま当てはめようとしても無理があるってわけ。
たとえば、君らも為替取引したことあるだろ?

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ライオンがカッコいい100香港ドル紙幣(引用元

香港ドル(HKD)って、米ドルとペッグされてて(ほぼ)固定相場なんだよね。で、大量に先物(フォワード)を売ると、スポット・レート(現時点の為替レート)は(ドルペッグ政策で)固定されてるけど、フォワード価格は下がる。
その下がり方って、実質的に90日金利と同じになるんだよ。つまり金利を押し上げてるようなものなんだ。

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1ドル=7.75香港ドル〜7.85香港ドルのレンジを推移(引用元

で、昔のファンドはこういうことやってたんだよ――
まず香港株をショート(空売り)する。次に(さっき説明したように)香港ドルをフォワードで売って金利を押し上げる。そうして市場をビビらせて株価を下げる。 その後で株のショートを買い戻して儲ける。 うまくいけば、為替の方でも収益が出るって寸法さ。
これがうまく機能してたのは、「金利と為替が連動して動いてたから」なんだよね。

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2020年に例の件(意味深)で投資家がフォワード売りを仕掛けたことも(引用元

でもね、同じことを日本円(JPY)でやっても通用しない。
円は対ドルでも変動相場だから、フォワードで売っても円安にはなるけど、金利はゼロに張り付いたまんま。
つまり、為替が変動制か固定制かで、動き方がまったく違うってことなんだ。
1994年のメキシコ・ペソ危機、1998年のロシア・ルーブル危機、そしてポンドを巻き込んだERM(欧州為替相場メカニズム)の崩壊とかあったと思うけど、変動為替制ではああいう"爆発的な崩壊"って起きないんだよ。つまり、固定相場と変動相場じゃ、まるで別モンなんだよ。
変動相場だと、通貨は普通に上がったり下がったりする。
たとえばユーロが50%下がったこともあったけど、誰も大して気にしてなかった。
オーストラリアドルも同じ。50%下がっても"ふーん"って程度だったよ。
逆に通貨が50%上がっても、新聞の2面か3面にちょろっと載るぐらい。
変動相場っていうのは固定相場とは全く違う世界なんだよ。
で、この違いってのが、私が1990年代の初めに気づいたことだったんだよ。 当時はまだ"Modern Monetary Theory(現代貨幣理論)"なんて名前じゃなかったけどな。 その後、ほとんどの国の通貨が変動相場制になったもんで、 それを土台にした考え方として、"Modern Monetary Theory"って呼ばれるようになったってわけさ。

アダム・バトラー:
そうだったのか。つまり、経済学を考え直す根っこの動機って、そもそも新古典派経済学が「固定為替相場ありき」って前提でできてるから、ってことなんだね?
正直、そこまで深く考えてなかったよ。


「中立金利」は固定相場時代の遺物

ウォーレン・モズラー:
そうなんだよ。みんなあんまり気づかないんだけど、これがけっこう根深いんだよね。
で、たとえば最近よく聞くでしょ?「中立金利(neutral rate)」っていう言葉。
FRBが「今の中立金利はどの辺りか」って必死で探ってるわけだけど、
そもそも「中立金利」って発想自体が、固定相場の時代のエコー(名残り)なんだ。
たとえば香港ドルみたいに固定相場だったら、フォワードレートっていうのは、「香港ドル(HKD)を持ち続けるか、それとも米ドル(USD)に換えるか」って判断の中で、金利を反映するようにマーケットが動いて決めていくんだよね。
で、同じことが金本位制にも言える。
金(ゴールド)と交換できるドルが流通してる時代ね。(訳註:ここで言ってるのは19世紀の金本位制ではなく、1944年からのドルを介した金本位制、「金ドル本位制」の話だと思われる。)
政府が赤字支出を行うと、それはつまり金兌換のドルが市場に増えるってことになる。金兌換のドルを借入れる(債券発行)のはその後さ。
で、ここが大事なとこなんだけど──
なんでわざわざ政府はそんなこと(債券発行)をするかって?
それはね、人々が金の引換券(ゴールド証書)を使って、本当に金(ゴールド)を引き出しに来るのを恐れてるからなんだよ。
つまり、金準備がごっそり減ることを避けたいってわけさ。

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今ゴールドに換えるかは金利次第(画像:生成AI)

で、ここで登場するのが金利(interest rate)ってやつだ。
金に交換できる通貨を持ってる投資家たちにとって、
「このまま通貨を持っておくか?それとも金(ゴールド)に交換しちゃうか?」って判断の分かれ目になるのが金利なんだ。
つまり、この通貨を持ち続けていれば金利がつくって状況なら、
「金に換えるのはちょっとやめとこうか」ってなる。
そしてこの仕組みから自然とイールドカーブ(利回り曲線)が右肩上がり(償還期間が長いほど利回りが高い)になるんだ。

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金(ドル)本位制では左の順イールド(引用元

どういうことかっていうと──
償還期間が長ければ長いほど、金に交換できるまでの"待ち時間"が長くなるわけだよな?
そのぶん、「この間に何かトラブルがあるかもしれない」って不確実性のリスクが高まるんだ。
だから、投資家にとっては"長く待つ=高いオッズ(利回り)じゃないと割に合わない"って話になるわけさ。


1998年のロシアで起きたこと

ウォーレン・モズラー:
たとえば、1998年に起きたロシアのルーブル危機を思い出してほしい。
当時、ルーブルは「1ドル=6.45ルーブル」って固定レートでドルに換えられるってことになってた(これも実質ドルペッグ制)。
でも実際には、"ルーブルを持っててもほんとにドルに換えられるのか?"って不安が出てきたわけさ。
というのも、ルーブルってのは実際の経済の中では、"ドルに換えられる"以外に持つ理由がほとんどなかったんだ。
それくらい"実態以上に高く評価されてた"ってことだな。
で、その不安――つまり"ルーブルを持ち続けるリスク"ってやつが、どんどん上がる金利に反映されていったわけよ。
ロシア政府は、"ルーブルをドルに換えさせないために"GKO(ロシア国債)を大量に発行して金利を釣り上げていった
その金利がどうなったかって?
5%、10%、20%、ついには40%まで跳ね上がったんだ。
で、政府はIMFから数十億ドル借りて、なんとか持ちこたえようとした。
そのとき金利は一時的に20%まで下がったんだ。
でもね、そのIMFの支援が尽きて、打ち切られたとたん、事態は一気に悪化した。
金利は50%、100%へと爆上がりして、しまいには200%にまで上がった。

画像
1998年のロシア・ルーブル危機(引用元

それでも、誰もルーブルを持ち続けようなんて思わなかった。
みんな"ドルに換える"ことしか考えてなかったんだよ。
面白い話があってね……ロシアの中央銀行、もう完全にお手上げで、職員たちは何もせずに3か月くらい"デスクに座ってただけ"って感じだったんだよ。ほんとに、"電気も消さずに出てった"みたいな状態だった(笑)

アダム・バトラー:
ははは、それはすごい話だな!

ウォーレン・モズラー:
だって、もうどうしたらいいか分からなかったんだと思うよ。
通貨制度をどう変えるのか、どう切り替えたらいいのか、それが分からなかったか、あるいは分かってても、やったら命が危ないって思ったのかもしれない。
まぁ、お国によってはそういう事情もあるからね。
で……ごめん、さっきの質問、何だったっけ?
ちょっと話が脱線しちゃったな(笑)

アダム・バトラー:
いやいや、全然OK。
もともと聞いてたのは、「MMTってどんな考え方で始まったのか」ってところで、その核心に"固定相場と変動相場の違い"があるってことが、すごく面白かったんだ。


オバマも日和った。「スペンディング・ファースト」の話

[00:09:37]

リチャード・レーターマン:
そしたらこの話を、もうちょっと深掘りしていこうか。
MMTが古典派経済学とどう違うのかっていう話の中で、
たとえば「オペレーションの順序」ってのがあるよね。
ステファニー・ケルトンの本では、これをS (TAB)(支出→(徴税+借入))と(TAB) S((徴税+借入)→支出)って呼んでるけど、つまり「政府は徴税や借入よりも先に支出する」っていう考え方。
これをもう少し掘り下げていけたらと思うんだ。

ウォーレン・モズラー:
よし、じゃあ最初から話そうか。
税を支払うためのドルってのは、そもそもアメリカ政府から出て来るんだよ。
でもね、それって経済学のモデルの中には入ってないんだ。
経済学じゃ「G−T(政府支出−税収)」って式を使って、「税を回収してから支出する」ってなってるけど、因果関係の順番が逆なんだ。
式そのものはいいんだけど、大事なのはG(政府支出)が先だってこと。
ドルがなければ、そもそも税なんて払えないだろ?
国債についてはどうかというと、確かにFRBの誰に聞いてもこう言うよ、「準備金を追加するには、事前に準備金の排出がないといけない」ってね。でもその意味するところは、彼らの仕事は、日々のオペレーション要因を相殺することで、たとえば、国債の決済時にフェッドファンド金利(政策金利)が上がって、「準備金が足りてない」って兆候が出たら、FRBはレポ(再購入)を使って準備金を追加する。
最近はQE(量的緩和)で、事前に大量の準備金を追加してるから、毎回のオークションで操作する必要はないけどね。(訳註:上記のFRBの言い方はともかく、実態としては準備金の追加が先で、それが国債と交換されて準備金が排出されると、また準備金が追加される流れ。)
でもこれって、固定相場制でさえも「政府が先に支出してる」ってことには変わりないんだ。
金本位制のときでさえ、政府は金(ゴールド)を買って、いわゆる「金兌換証書」みたいなものを刷って、または中央銀行の口座の数字を増やす(クレジット)と、そこから税を払うためのドルが生まれるんだ。
これはすごくシンプルな話さ。
誰も「スタジアムはまずお客さんからチケットを集めてから、チケットを売る」なんて思わないでしょ?
スタジアムが先ずチケットをお客さんに売って、次にお客さんからチケットを集めてるってのは当たり前のことだ。
チケットはスタジアムが発行してるものだからね。
実はオバマ大統領だってかつてこう言ってたんだよ。「マネーは政府から出てくる」ってね。
でも、その時すごいブーイングがあって、「いやいや、ほんとの富は民間から生まれるんだ!」って言い直したんだよ。
でも、それって、"実体的な富"と"税金を払うためのドル"を混同してるんだよな。
オバマは結局、「本当の富は民間から生まれる。政府はそれを一部持っていくだけだ」って譲歩しちゃったけど、最初の発言のほうが正しかったんだよ。

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オバマのダメな発言その2「アメリカ中の家族が支出を抑え、困難な決断をしている。政府もそうしなければならない。」(2010年一般教書演説)(画像引用元

税金を払うためのドル――つまり納税義務を果たすための名目的な納税手段(タックス・クレジット)ってのは、民間からじゃなくて、政府から出てくる。
これがステファニー・ケルトンが言ってる「順序」の話なんだ。


潮目が変わったのは…

ウォーレン・モズラー:
ところがね、議会の連中、全員って言ってもいいけど、その順番を逆に考えてるんだよ。
「まず徴税してドルを入手しなきゃいけない」って思ってる。ドルは徴税によって得られるわけじゃないんだけどね。
そして「税金で足りないなら、借金しなきゃ」ってなる。
で、「その借金は中国からしてる」とか、「孫の世代にツケを残すことになる」とかね。
オバマ政権が最初の景気刺激策をやったときも、本当は2兆ドルが必要だと思ってたけど、「そんなに借金したらヤバい」ってビビって、1兆ドルだけに減らしちゃったんだ。
たしか当時国務長官だったヒラリー・クリントンもオバマと一緒に中国に飛んで、「お願いだから国債買ってください、アメリカの医療制度が潰れちゃうから」って言いに行ったんじゃなかったっけ(笑)

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米国債買っチャイナおばさんことヒラリー・クリントン(記事URL

ポール・ライアン(当時下院議長)なんかは、「アメリカがギリシャみたいになる」って言ってた。IMFにすがる羽目になるぞって。
クルーグマンか、それに近いニュー・ケインジアンの誰かだったと思うが、「これだけ借金すれば金利が上がるぞ!」って大統領に分厚いレポート出してたしね。
でもそれから8年後、新型コロナウイルスの流行で、政府は5兆ドルくらいの赤字を出した。
でも誰もギリシャの話なんてしなかった。
中国のことも気にしなかった。
金利も気にしてなかった。
みんなが心配したのは、「インフレになるかどうか」だけだった。
なぜそれが変わったのか?
何が8年で変わったのか?
それを象徴してるのが、ステファニー・ケルトンが上院予算委員会の要職に就任したことだと思う。

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潮目を変えたケルトンの「赤字の神話(The Deficit Myth)」(邦訳

ケルトンが発言し始めて、みんなが彼女の文章を読んで、考え出した。
すぐにじゃないけど、8年かけて、こうなった。
「政府の小切手は不渡りにはならない」ってみんな知るようになった。
詳細は理解できていなくても、金利はFRBが上げようと決めない限り上がらないってわかってきたし、「問題は、支出が多すぎてインフレを起こすかどうか」って議論に変わった。
つまり、MMTが論点を正しい場所に移したってことなんだ。
もう「国債は売れるのか?」とか「不渡りになるのか?」って話じゃなくて、「その支出が経済にどんな影響を与えるのか?」ってことを問うようになった。


政治家って本当にわかってないの?

アダム・バトラー:
でもさ、ウォーレン、なんで議員とか有名な主流派の経済学者たちは、さっき言ってた「政府支出は税金で制約されない」って話を受け入れるのに、そんなに苦労してると思う?
どうしてそれを理解するのがそんなに難しいのかな?

ウォーレン・モズラー:
うん、それはね、いい質問なんだよ。私も実は、その答えを君にも手伝ってほしいと思ってたくらいだよ。
私としては、MMTの話ってすごくシンプルだし、10歳の子どもにだって説明できると思ってる。
実際、私自身が上院選に出馬したとき、同じく出馬してたリチャード・ブルーメンタール上院議員と会って、3時間くらい話したんだ。ちなみにこの時私は1%しか得票できなくて選挙には負けたんだけどね(笑)

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2010年、割とガチで上院選に出ていたMMTおじさんの黒歴史(プレスリリース原文

ブルーメンタール議員はハーバードで経済を習ったって言ってたよ。60年代の話だけどね。
「うん、たしかにそう習ったけど、でも今はそこには踏み込めない」って言ってたんだよ。
その後、彼が議員に当選してから再度会ったときに、「議会の中でMMTわかってる人いる?」って聞いたら、
彼は「いないと思う。誰かいるなら教えてくれ、そしたら自分も話し始めるよ」ってさ。
要するに、彼自身も理解はしてた。でも、最初の一歩を踏み出したくなかったんだよね。
他の議員については、あんまり個人的な付き合いがないから語れることはないけど、たとえばヴァン・ホーレン上院議員(メリーランド州、民主党)とは友人と一緒に会ったことがあって、私の本もちゃんと読んでくれてた。
でもやっぱり、ホーレン議員にしても「誰か他の人が先に話してくれたら…」って感じだった。
もうその時点で、知的誠実さに欠けてると言えるかもしれないけど、同時に、これは政治的意思の問題でもあるんだよ。
「波風立てずに再選される」のがいちばん楽だし、選挙資金もそのほうが集めやすい。
だから結局、みんな「今まで通りのこと」を繰り返し言ってるんだと思う。
だからね、正直なとこ、私にもはっきりした答えは出せないんだ。


人は失業よりも〇〇を嫌う

アダム・バトラー:
こういう話を世の中に出すとき、つまり「政府支出ってのは、税金や借金に縛られてない」って言い出すと、人々の間で「希少性が崩れる」とか、「お金に対する自制がなくなる」って恐れられるのかな?

ウォーレン・モズラー:
うん、まさにその通り。間違いなくそうだね。
でも私はこう言いたい。
「君は"知識を得た有権者"ってやつを信用するか?」ってね。
そして、正直言って、多くの政治家たちは有権者を"信じてない"んだ。
「もし人々がこの事実を知ったら、もう何でも欲しがって大変なことになる」って思ってる。
でも、私の観察ではね、実際はまったく逆なんだ。
みんなね、3%のインフレに苦しむくらいなら、10%の失業のほうを選んじゃうんだよ。
むしろ人々は、政治家が心配しているのとは逆方向に振り切れてしまっているんだ。
それにね、一部の人たちは、高い失業率が続くことにある意味"安心"を感じてるようにすら見える。
失業率が5%、6%、7%とあればね、残りの93〜95%の人たちは、「配管工呼んだらすぐ来てくれる」「芝刈り頼んだら20ドルでやってくれる」とか、要は人を安く雇えて便利って話なんだよね(訳註:もちろんモズラーはそれがいいと言ってるわけじゃないよ!)。
「20ドルで芝刈りやってもらえたよ」「え、俺30ドルだったよ。誰に頼んだの?」――なんてね。
で、私が思うにね──自分の収入が安定してて、生活に困ってない人たちって結構多いわけよ。そういう人たちは、とにかくインフレを嫌がるんだ。
それに、困った人たちが自分のところにお金を求めてくる方がいいんだよ。そうなると、自分が"力のある立場"になったように感じられるからね。
つまり、失業率が5%ってことは、95%の人は職がある側にいるってことだろ?その勝ち側にいる人たちにとっては、インフレよりも、ちょっとした失業のほうがむしろ好都合に感じられたりするんだよ。
そういうのが、人間の性(さが)ってもんなんだろうな。
で、今のアメリカを見てごらんよ。
インフレ率が3%台だってのにバイデン政権がひっくり返っただろ?

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むしろよくぞ3%近くまで落ち着いたなって感じだが…(引用元

あれは一体どこから来た流れなんだい?
"政府がタダで何かを配るのは気に食わん"とか、"もっと政府支出するなんてごめんだ"とか、そういう話じゃないんだよ。
人々が嫌ったのは、インフレそのものだった。
経済は強かったし、失業率は史上最低水準だったのに、政権はひっくり返ってしまったんだ。
つまり、それだけ"インフレへの忌避感"が強いってことなんだよ。
だからこの事実は何かを物語ってると思うんだよ。
もちろん、いつもそうとは限らないかもしれない。
だけど──今この瞬間は、まさしくそういう空気があるってことさ。


「ハイパワード・マネー」も時代遅れの概念だよ

[00:18:36]

リチャード・レイターマン:
なるほど。
で、ここで確認したいんだけど、MMTがどうやって「政府支出の種類ごとの違い」を捉えてるのか、そこをちゃんと理解したいんだ。
というのも、ここ十数年でMMTが注目されるようになった背景には、2009年以降の量的緩和(QE)で"インフレが起きるんじゃないか"っていう懸念があったと思うんだ。(もし僕の理解が間違ってたら訂正してくれていいけど。)
そして確かミルトン・フリードマンが提唱した区別があるよね。
つまり、彼が区別したのは──

  • 一方では 「ハイパワード・マネー」、つまり"僕らの財布にあるマネー"とか、財政支出によって経済に直接流れ込んでくるマネー。

  • もう一方では、「フィナンシャル・マネー」、つまり量的緩和で銀行システムに注入されたお金。これは主に金融機関の健全性を守るために供給されたお金だ。

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「フリードマンは…中銀が紙幣を刷り、新たに創造した準備預金で国債を買う形でインフレを引き起こせると主張していた」(引用元

そこで聞きたいんだ。MMTでは、この二つをどう区別してるのか?
それから、インフレの原因としてより強いのは、財政支出のような"ハイパワード・マネー"の側なのか?
それとも、量的緩和みたいな金融政策オペレーションなのか?
MMT的には、どっちがインフレに効いてくると見てる?

ウォーレン・モズラー:
まず言っとくけど、「ハイパワード・マネー」ってのは、固定為替相場の時代の考え方の名残だよ。
当時は「ドル=金(ゴールド)と交換できる」って前提があって、それが"パワーのあるマネー"だった。で、銀行はそのマネーを必要としていた。
なぜって、預金者が現金を引き出すときは、金に交換できる兌換通貨で返さなきゃならなかったからね。
だから当時の金融システム全体は、金準備量に由来する"兌換可能通貨の供給量"に制約されてたってわけさ。


量的緩和って意味あんのかい?

ウォーレン・モズラー:
その文脈で考えると、量的緩和(QE)ってのは、政府が国債を買ってるだけの話だ。
で、その国債ってのは、実質的には"ドル建ての貯蓄"にすぎない。 機能的には、連邦準備銀行(FRB)が運営する"貯蓄口座"と同じもんなんだよ。
たとえば、バンク・オブ・アメリカとかJPモルガンが預金者に向かってこう言ったらどうなる?
「うちとしては、みんなに貯蓄口座(savings)よりも当座預金口座(checking)を使ってほしい。その代わりちょっとプレミアムつけますよ」ってね。
で、預金者が「じゃあいいよ」って言って、貯蓄を当座に切り替えたとする。
これを聞いて、「インフレになる!」って騒ぐ人がいると思う?
FRBだって、普通の銀行と同じで、ただ帳簿を管理してるだけなんだよ。
(1)政府が支出するときは、FRB(自分の銀行)に指示して、君の銀行口座の数字を増やす(クレジット)ってだけのこと。
JPモルガンのFRB内口座──つまり"準備金口座"をクレジットするわけ。
これって要は"当座預金口座"と同じもんだ。
そしてそこに数字を書き込めば、すでに通貨は生まれているわけ。
その資金は、他の誰かのFRB口座にしか動かせない。
(2)で、君が国債を買えば、そのドルは準備金口座から貯蓄口座(=別のFRB内の口座)に動くだけ。
(政府の支出が資産を増やすのと違って、)君の財産は何も増えてないし、経済全体も変わってない
銀行の帳簿のどこに記載されてるかが変わっただけ。ただの口座振替。

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もっちー本より(密林で買おう)

FRBがやってるのは、人々が資産を保有する判断基準を、ちょびっといじってるだけなんだ。
QEはあくまで、手元の資金(キャッシュ)をそのまま維持するか、満期の長い資産(デュレーション)に振り向けるかという判断に僅かに影響を与えるだけ。
で、それが一体、経済に何の影響を及ぼすって言うんだい?


日銀の職員は何て答えたのか

ウォーレン・モズラー:
たとえばね、私が25年くらい前にイングランド銀行のアンドリュー・クロケットって人と話したことがあるんだ。 そのとき、日本銀行の関係者とも一緒にいてね。 ちょうど(2001年に)日銀が量的緩和(QE)を発表した直後だったんだよ。
3人で和やかに話してて、私は日銀の人にこう聞いた。
「日銀が日本国債(JGB)を買い取って、その分を準備金口座の数字を増やす(クレジット)。それで何が起こると思ってるの?」ってね。
国債を減らした分の準備金を増やしたからって、信用のおける借り手が列をなして融資を受けにやってくるわけじゃない。
そもそも「貸し出しが預金を生む」のであって、「預金があるから貸せる」んじゃないのさ。だから、準備金を増やしても、貸し出しが増えるってわけじゃないんだよ。そんなことで何か効果があると思ってるのは、お門違いもいいとこさ。
クロケットも、それを聞いてすぐにうなずいたよ。 日銀の担当者に「で、どう思う?」って顔してた(笑)
そしたら日銀の人は、「それがわれわれの政策です。あとは様子を見るしかないです」って答えたんだ
そのあと30年にわたって日銀はあらゆる日本国債を買いまくって、日本の政府債務全体の満期(デュレーション)をゼロに近づけたけど、何も変わらなかったじゃないか?そうだろ?
「何も起きない」ってことを証明するのは私の責任じゃない。
「何かが起きる」って主張する人が、その理由を説明すべきなんだ。

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日経新聞;日銀量的緩和、金融危機対応で「効果」 デフレ止められず(記事

リチャード・レイターマン:
それでも、ある意味では影響はあったんじゃない?
日本の国債市場って、しばらく事実上なくなったようなもんだったでしょ。
何日間も取引がまったくないこともあったし。

ウォーレン・モズラー:
うん、でもさ、それが何だっていうの?
「取引したいのにできなかった」って話じゃないでしょ?
誰も取引したくなかっただけじゃん。
夜になったら市場が眠るのと同じさ。
「存在してない」ように見えるけど、それは寝てるだけ。
眠ってるのを起こせば取引はされるとも。


"人類の労力の壮大な無駄遣い"

[00:24:07]

リチャード・レイターマン:
じゃあ、ちゃんと機能する国債市場って、その国の経済の機能にとって重要な要素だと思う?

ウォーレン・モズラー:
うーん、まあ、「経済が機能してる(functioning economy)」っていうのをどう定義するかによるよね。
でも、私だったらそんな風には定義しないよ。
昔は国債なんてなかったときもあったけど、誰も困らなかったからね。
当時は「Tel 7 days」って7日物の短期貸出レートなんかをベンチマークに使ってたし。
結局それって、ただの"参照点"にすぎないんだよ。
政府債市場なんて、別に経済を動かすために必要なもんじゃない。

日本を見れば分かるけど、日本国債の取引がなかろうと、マクロ経済には何の影響もなかったじゃん?誰も取引してないならそもそも誰が気にするっていうんだ?

リチャード・レイターマン:
じゃあ、もしFRBが市場に出回ってる国債のほとんどを買っちゃって、
今の国債市場が機能しなくなったらどう思う?
流動性がなくなって、それがアメリカの経済とか金融市場に悪影響を与えるってことはないの?

ウォーレン・モズラー:
私はそうは思わないよ。むしろ、もう一歩進んだ考えがあるんだ。
たとえばさ、財務省が全部3カ月物の短期国債だけ発行するようにしたらどうだい?
そしたら長期債はゼロだ。…で?誰が困るんだい?
わざわざ国債を発行して、それをFRBが買い戻すなんて、ムダな手間じゃないか。
間に挟むステップをすっ飛ばせばいい。なんでそんなこと、わざわざやってるんだ?
これじゃ"人類の労力の壮大な無駄遣い(waste of human endeavor)"ってやつだよ。間に証券ブローカーを1人、2人挟んでさ。

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この無駄なステップこそ「穴掘って埋める」ってやつでは?(画像:生成AI)

結局、バーナンキが言ってることって…

ウォーレン・モズラー:
昔ベン・バーナンキと会ったことがあってさ。
彼がFRBの副議長を5年務めてから議長になるまでの、ちょうど合間の時期だった。たしかその時は、大統領経済諮問委員会(CEA)のトップをやってたと思う。
私含めてたった4人だけの会合だったんだけど、MMTの話をするつもりはなかったよ。だってまた呼んでほしかったからね(笑)
でね、彼が「非伝統的金融政策」の話をしてたから、質問したんだ。
バーナンキは当時、ヴィンセント・ラインハート(グリーンスパン時代の金融政策責任者。訳註:バーナンキ時代にはFRBの金融政策局長)と一緒に論文を書いていた。ちなみにラインハートは私がスピーチを書くのを手伝ってくれたこともある。実際FRBでオペレーションをやってる連中に話してみると、私が言ってることを正確に理解できるんだよ。彼らの使ってる言語で喋ってるんだから議論の余地もないんだ。
ともかく、バーナンキにこう聞いてみた。
「君は非伝統的な金融政策について論文を書いてるみたいだけど、財務省が国債を発行して、それをFRBが買うっていうなら、最初から財務省が国債を発行しないのと同じじゃないか?民間からすれば実質同じだろう?だったら最初から連携して国債を出さないようにすればいいじゃないか?」って。
そしたらバーナンキはこう返してきた。
いや、それは違う。FRBが国債を買えば、準備金(リザーブ)をシステムに追加することになる。それには影響があるんだ」ってね。
まあ何ともナンセンスな答えだったんだが、要はバーナンキは準備金会計(リザーブアカウンティング)の仕組みをちゃんと理解してなかったんだよ。
もちろん彼は賢い人だったよ。
プリンストンの教授で、専門は「金本位制から大恐慌までの経済史」を研究してる。
その範囲のことは完璧に分かってる人だった。
でもね、バーナンキの考え方って、ぜーんぶ金本位制時代のエコー(名残り)なんだ。

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ゴールドスタンダード丸出しだな?

金本位制だったら、「FRBが国債を買う=金との兌換性のある通貨が増える」って話にはなる。
でも、変動相場制ではそういうの、まったく関係ない。
準備金を保有する主体には、選択肢が2つしかない。

  1. 何もしない(そのまま準備金として持っとく)

  2. 国債を買って別の口座(貯蓄口座)に移す

金本位制だったら、もう1つの選択肢があった。
「金(ゴールド)を持ち出す」ことができたんだ。
でも今はそれができないから、通貨制度そのものがまったく違う構造になってる。
つまりさ、テレビでチャンネルが違うようなもんだよ。
昔の制度と今の制度では、全然違う番組を流してる。
見た目は似てても、中身も登場人物も全然別物なんだ。


量的緩和って意味あんのかい?Take2!

アダム・バトラー:
じゃあ、その準備金の会計処理(リザーブアカウンティング)について、もうちょっと詳しく聞きたいんだけど…
たとえばQE(量的緩和)って、FRBが「証券口座(国債)」と「当座預金口座(準備金)」の間でマネーを動かしてるってことだよね?

ウォーレン・モズラー:
うん。ただね、FRBは直接取引してるわけじゃないんだよ。
プライマリーディーラー(JPモルガンやゴールドマン・サックスなど、FRBに登録された金融機関)を通してやってる。
(訳註:日本でいう国債市場特別参加者制度のこと。例えば野村證券、大和証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券などの証券会社が登録されていて、日銀とのオペに参加できる。リストは財務省ページで見れる。)
たとえば、ある銀行が証券を売って、それをFRBが買う。
それがシティバンクだろうが、バンカメ(バンク・オブ・アメリカ)だろうが、経済にとってはどうでもいい話だよね。
私がJ.P.モルガンだとして、自分の持ってる国債をFRBに売ったとしよう。
そうしたら、FRBが私の準備金口座のドルを増やして、証券口座(国債)のドルを減らす。
100億ドル分(国債)減らして(デビット)、100億ドル分(準備金)増やす(クレジット)。それだけなんだ。

アダム・バトラー:
じゃあ、バーゼルII(参照)とかの銀行の自己資本規制の下で、証券口座に10億ドルあるのと、準備金口座に10億ドルあるのとで、銀行にとって何か違いはあるの?

ウォーレン・モズラー:
あるといえばあるかな。
たとえばそれが3ヶ月物の短期証券だったら、国債も準備金もリスク・ウェイトはゼロだから違いはないけど、それが長期債になると話はちょっと変わる。
銀行ってのは、(米国では)CAMELS規制ってのに従ってるんだよ。
これは次の評定項目の頭文字を取ったものだ。

  • C=Capital Adequacy(自己資本)

  • A=Asset Quality(資産内容)

  • M=Management(経営)

  • E=Earnings(収益性)

  • L=Liquidity(流動性)

  • S=Sensitivity(感応度)

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CAMELSはアメリカの銀行の健全性を評価するためのフレームワーク(かわいい)

最後の項目は、銀行は金利変動に過敏になってはいけないってことなんだ。
金利が上がっても下がっても、銀行の資本が大きく変動しないように求められてる。
もし変動するようなら、調整が必要なんだよ。
だから、長期国債を持ってる銀行が、短期の証券に切り替えたりすると、その「デュレーション(満期構成)」が変わるでしょ?
そうするとリスクバランスが崩れる可能性がある。
そうなったら、それに応じて調整が必要ってわけ。
でも、それ以外では、国債も準備金もリスク・ウェイトはゼロだし、銀行の全体資産は変わらないから、レバレッジ比率への影響も限定的だよ。
つまり、違いがあるとすれば利率への感応性、デュレーションの違いくらいってことだね。
個人にとっては、ほとんど何の違いもないよ。


(パート2/3に続く…)

【神動画】モズラーと読み解くMMT(2025年1月18日)パート2/5(※長いから5分割にしたよ!)|🦉ゲーテちゃん🦉

【神動画】モズラーと読み解くMMT(2025年1月18日)パート2/5(※長いから5分割にしたよ!)|🦉ゲーテちゃん🦉

Unraveling the Mysteries of Modern Monetary Theory with Warren Mosler https://youtu.be/C9DJEG4qWKk?si=pFsGvTbGiF4dpmMr @YouTubeより
2022/01/18

https://note.com/goetche_chan/n/n31255a01de6b?sub_rt=share_pb

【神動画】モズラーと読み解くMMT(2025年1月18日)パート2/5(※長いから5分割にしたよ!)

見出し画像

…だってさ、政府が「欲しい」って言って、手に入れられなかったこと、聞いたことある?

MMTの父モズラーが語るMMTと経済シリーズの続き。
パート2では、長期国債の買いも、価格の変動も、単純な「需要と供給」という因果関係では説明できないものがあることが語られている。

やはり90分動画を30分ずつで3分割は長すぎたようなので、残り60分は4パート(15分ずつ)でお届けする笑(つまりパート1と合わせて全5パート。)

(英語で実際の動画を見たい人はこちらのリンクから。見出しや太字、画像などは訳者が付したもの。)
パート1はこちら


パニック相場で長期債を買っていく勢力

[00:31:08]
アダム・バトラー:
仮にあなたが銀行だとして、自分のポートフォリオのデュレーション(長期間の金利リスク)を一定に保ちたいとするよね。で、FRB(連邦準備理事会)が(量的緩和措置として)そのデュレーションの一部を吸収したとする(FRBが10年債や30年債といった長期債を市場から買い取る)。すると、銀行としては影響を受けるんじゃないか?…

ウォーレン・モズラー:
うん、まあ、イエスでもありノーでもあるかな。
だってさ、銀行は別にFRBに債券を売る義務なんてないんだよ。
FRBが買いたい時に相手が見つからなければ、0.5ベーシスポイント(0.005%)くらい上乗せして、そのオファーに応じる相手から買うってだけの話さ

で、そうやってイールドカーブ(いろんな年限の金利を線で結び付けた「利回り曲線」)に影響を与えられるわけ。
FRBがイールドカーブ上のどの地点でも大量に買えば、その地点に影響を与えることができる。長期にいけばいくほど、価値の影響が大きくなる。

2001年あたりなんかは特にそうだったけど、償還期間が長くなるほど、債券の量も増える。つまり、FRBが200億ドル分の長期国債を買うってのは、200億ドル分の3ヶ月物の短期証券を買うより、ずっと大きな影響を市場に与えるんだよ。

アダム・バトラー:
なるほど。

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横軸:1年から30年までの償還期間、縦軸:米国債券市場の金利水準(引用元

ウォーレン・モズラー:
たとえば、FRBが長期債をたっぷり買ったら、金利を5〜10ベーシスポイントぐらい、もしかしたら0.5%くらい動かすこともある。
でもね、例えば「30年債の利回りが4.25%から4.75%になった」って聞いて、普通の人が「それが一番の問題だ」なんて言うかい?
「へ?それが問題なの?」って反応が普通だよ。トレーダーにとっては大ごとだけどね。

ちょっと昔の話だけど、20年債を大量に発行し始めたとき、最初はイールドカーブ(利回り曲線)を15ベーシスポイントくらい動かしたんだよ。
これって「固定相場制」の時代で言えば、「流動性選好(liquidity preference)」ってやつ。
つまり「マネーは十分あるけど、長期債を買いたがる人が足りない」って話。

だからさ、問題はやっぱりこうなるんだ:
「デュレーションへの買い需要はどれくらいあるのか?」
これって、私がずっと驚かされてきたことのひとつなんだ。
というのも、「どれだけ需要があるか」って、正直わからないからさ。

過去にもいろんなパニック相場を見てきたよ。

  • 「FRBが量的引き締め(QT)をやるぞ!」

  • 「長期債が売られるぞ!金利が10%まで跳ね上がるかも!」

  • 「おい誰も買わないんじゃないか!」

――って市場が大騒ぎしたかと思えば、急に100ベーシスポイント(=1%)も金利が下がって、元の水準よりも低くなってる
つまりそれって、「デュレーションの強い買いが入った」ってことだよね。
「どこから買いに来たんだそれ?」って、私も何度も思ったよ。


学校の先生が働いて積み立てた年金は・・・

ウォーレン・モズラー:
年金ファンドってやつは、「火曜日だから」ってだけで長期国債を買ってたりするんだ(笑)
火曜日に残高を見て、「お、資金が入ったな。じゃあ買っとくか」って感じで。
根拠は、ありがたくも意味不明な「60/40ポートフォリオ」というお題目だったりするわけさ。

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「株式60%、債券40%」の典型的な資産配分戦略。特に年金基金、保険会社、ファミリーオフィス等でよく使われる。(引用元

で、そのマネーってのは、(例えば教員年金基金の場合、)全米の教員が毎週40ドルずつコツコツ年金に積み立ててる分なわけよ。
そのどっと流れ込んできた積立マネーをぶち込んで、教員年金基金が律儀に長期国債を買い続けてる
って話。

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各国公的年金のポートフォリオ(2024年3月末)
上からCalPERS(米カリフォルニア州職員退職年金基金):75兆円(資産規模)、 CPPIB(カナダ年金制度投資委員会):71兆円、GPF-G(ノルウェー政府年金基金-グローバル):247兆円、 そして日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF):246兆円。(引用元

誰かがどこかでデュレーションを欲しがってるってことなんだけど、その「誰か」がどこにいるのかは、正直私にも分からない。
でも間違いないのは、「長期債がマイナス利回りになる」ぐらいのことが起きるってことは、とてつもない"デュレーション需要"(長期債を欲しがる買い手)があるってことだ。

で、実際そういう買い需要は、(個人の判断じゃなく、年金、保険、長期負債のヘッジなど)制度的、構造的な買いなんだよね。
保険会社は、何かの負債に合わせて買わなきゃならないし、長期的な負債を抱えている誰かが、それに見合う資産として買ってる。
つまりね、世の中における長期債のニーズってのは、私たちが想像しているよりもはるかにデカいってことなんだ。


長期になるほど利益が出る仕組み

リチャード・レーターマン:
でもさ、ここ数ヶ月で議論の流れが変わってきたよね。
「アメリカの財政が危ない」とか「債務危機が来る」とか。
インフレ期待が上がると、国債を持ちたがる人が減るとも言われてるし。
ドルの"武器化"とか、外国の中央銀行がドル資産を減らすって話もあるし…。
君はそういうこと、気にしてないみたいだけど…?

ウォーレン・モズラー:
もし私が決定権を持ってたら、もっと気にしてないと思うよ(笑)
だってさ、私だったら全部3か月の短期証券だけ発行して、FRBには金利をゼロに固定させる。
昔だって10年もゼロ金利やってたんだ。それをずっとを続ければいい。
そうすれば、そんなことで悩む必要なんてないんだよ。
でも、いま当局にいる人たちは、自分たちで招いた問題を気にしていながら、その問題をまた生み出し続けてるって感じだよね。

で、今の10年債の利回りって、たしか4.6%とかだろ?(訳註:2025年1月17日時点では4.61。参照元。)
それってフェデラルファンド(FF)金利(政策金利)と同じくらいじゃん?
つまり、イールドカーブがフラット(平ら)ってこと。
「いや、そんなに悪くないんじゃない?」って思うよね。

アダム・バトラー:
今は少しだけ正のイールドカーブにはなってるけど、まあほぼフラットみたいなもんだよね。

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米国の10年金利とFF金利(政策金利)との差はゼロに向かって収束(引用元
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長短金利差も縮小し傾斜は緩くなる(フラット化)(参照元

ウォーレン・モズラー:
で、30年債とかさらに長期になると、「コンベクシティ(価格の曲がり方)」がプラスになるんだ(訳註:超長期債には儲けの余地があるという話)。
だから、30年債のコンベクシティを調整した後のスプレッドは、名目利回りよりもずっと広くなる。

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コンベクシティを考慮しないと、債券価格を過小評価することに(引用元

昔は、みんなが長期債を売り叩いてて、コンベクシティに注意を払ってない時に、こっちはめちゃくちゃ儲かったよ。(訳註:市場参加者の多くは名目利回りばかり見てて、リスク調整後の価値を見逃している。)
だから、デュレーション買いが集まりやすい理由の一つが、この長期債が持つコンベクシティってやつなんだよ。
ま、ウォールストリート・ジャーナルとか読んでる普通の人が考えることじゃないよね。

アダム・バトラー:
僕たちだって、コンベクシティをすごく意識して見てるよ。

ウォーレン・モズラー:
おう、だよねだよね。今の30年債のコンベクシティで言えば、30ベーシスポイントはあると思うよ。


もし誰かが「〇〇で納税してね」って決めたら?

リチャード・レーターマン:
政府にとっての実質的な制限って何なの?

ウォーレン・モズラー:
これには2つのポイントがある。
(1)支出できる限界は、「売りに出されているモノ」で決まる。
(2)その「売りに出されているモノ」は、課されている税負担の「関数」になる。

たとえば、今の時代に「連合国ドル(Confederate dollars)」を持ってたって何も買えないでしょ?連合国ドルを得るために商品を売ってくれる人なんていないからね。(訳註:アメリカ連合国ドルは、アメリカ連合国(南部連合)が1861年から1865年の南北戦争中に発行した独自通貨。通称「グレイバック(Greyback)」。)
でも、もし誰かが「この連合国ドルで納税してね」って決めたら?
その通貨を得るために商品を売る人が現れるはずさ。人々は、税を払うためにその通貨を必要とするからね。

画像
南部のアメリカ連合国の50ドル紙幣(wiki

これは「独占(モノポリー)」のシンプルな事例なんだ。
独占体っていうのは、価格を決める側なんだよ。
だから、支出の"名目上の限界"というのは、政府が課している税負担の水準によって生まれる


"一回限りの価格調整"

ウォーレン・モズラー:
でも、たとえば社会保障給付みたいに、政府が人々にただ(無償で)マネーを配る場合、そのマネーを受け取った人たちは「政府の代理人(エージェント)」になる。
つまり、政府がモノを買える上限を考えるなら、政府のことだけじゃなく、マネーを受け取った「政府の代理人」のことも考えなくちゃならなくなるんだ。

だってこの「代理人」の人たちは政府に「何かを売ることでドルを稼いだ」んじゃなくて、ただでドルをもらっただけでしょ。
(「売られているモノ」は限られているんだから、)みんな(政府+代理人)の支出が「売られているモノ」よりも多いと、みんな一層高い価格を支払ってでも落札しようとする。より高い価格を支払うことで通貨は下方へと再定義されていくんだ。

みんなはこれを「インフレーション」と呼んでるんだけど、私は「価格水準の一回限りの調整(one-time adjustments in the price level)」と呼んでいる。

価格の変化ってのは一回限りの価格調整が積み重なったものなんだ。価格というのは(連続的に変わるんじゃなくて、)量子(quantum)にみたいに飛び飛びに変わってくものなんだよ。

時間(time)というのはスムーズに、滑らかに「流れている」わけじゃなくて、量子みたいに小さな小さな「飛び飛び」の単位時間の積み重ねでしかないんだけど、実は価格の世界でも同じことが起きてるんだ。

だって現実世界で行われているのは一つ一つの売買取引でしょ。
ある価格が別の価格へと動くたびに、通貨はその都度再定義されていくのさ。
それがたくさん集まると、あたかも価格が「連続的(continuous)」に変化しているように見えるけれど、よく見れば一つ一つの価格調整の積み重ねでしかない。

もし「インフレーション」というのを学術的にきちんと定義するんだったら、こういうことを議論しなくちゃいけないんだけど、どうも世間一般で言ってる「インフレーション」っていうのはちょっと違うんだよね。

画像
「一つ一つの取引」でポンポンと飛び飛びに価格が決まっていく

支出も「ルール」ってのが大事なんだ

[00:39:54]
ウォーレン・モズラー:
いくつか大事なポイントがあるんだけど、たとえばね、「売りに出されているモノ」ってのは、価格で示されてるわけさ。
もし価格が上がってるとしたら、それは「政府やその代理人が、提示されていた価格よりも高い額を払って商品を買っている」ってことなんだ。

世間で言われているように単純に「需要が多すぎる(excess demand)」だけで価格が上がるわけじゃない。
こうした価格上昇の多くは、これまで築かれてきた制度的な構造や仕組みに大きく左右されている。

でも、その仕組みに「価格ルール(price rule)」で支出する設定を組み込むと話は変わる。たとえば私がこう言ったとしよう。
あの通りの家、全部買ってきて。でも1軒あたり50万ドルまでしか払っちゃダメだよ」と。
で、家がだいたい45万~55万ドルで売られているなら、一部は買えるけど、(50万ドル以上の家は買わないから、)全体の価格を押し上げることにはならないよね。
でももし、「値段は気にせず全部買え!」って言ったら、そりゃ価格はつり上がるさ。

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制度的なインフレ要因は単なる「需給」で説明できない

つまり、「数量ルール(quantity rule)」で支出するのか、
「価格ルール(price rule)」で支出するのかで、結果は全然違ってくる

だからこそ、政府支出のやり方をどう設定するかっていうのは、結果を左右する上で決定的に重要なんだ。
これは難しい話だけど、でもここを理解しないと、絶対に正しい政策は作れない。
逆にここを分かっていれば、少なくとも「どこに問題があるのか」はちゃんと見えるようになるんだ。
その理解があれば、自分の答えに説得力をもたすことができる。それすらできてない人たちも大勢いるけどね。


選択肢がないことだってある

アダム・バトラー:
たとえば、コロナのときに配られた移転支出(給付金)と、
道路や橋を作ったり、保育施設を整備したりするような公共投資
どっちも政府支出だけど、この2つに違いはあるのかな?

ウォーレン・モズラー:
うん、違うね。
直接給付ってのは、政府の「購買力」を他人に渡してるってことだ。
で、あとはその人たちが「ちゃんと使ってくれるかどうか」にかかってる。
もしも渡したマネーが多すぎて、買えるものが足りなければ、価格が上がっちゃうよね。
一方で、(後者のように)政府が直接支出する場合(公共投資)は、契約に基づいて動く。
政府が「この価格は高すぎるな」と思えば、払わないって選択肢もあるんだ。
ただ、軍事みたいに「どうしても必要なもの」だと、高かろうが安かろうが結局は必要だから買う。
そしてその結果、価格を押し上げることもある。

たとえば、サウジアラビアから原油を買い足すとき。
あれはもう、「払うか」「停電するか」しかない(笑)

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出典:ウクライナ情勢と原油価格、そして、脱炭素(前編)(参照

今回の始まりは、ウクライナでの戦争が勃発した(2022年2月24日)直後、サウジが原油価格を120ドル/バレルまで引き上げたことが引き金だったよね。

原油価格は、いわゆる「インフレ指標」と呼ばれているものに大きな影響を与えている。その代表例がCPI(消費者物価指数)だ。
ただ、CPIっていうのは、「政治的に決められたインフレ指標」であって、
本来の意味での「価格水準(price level)」そのものではない
んだよ。
良いとか悪いとかじゃなくて、そういうふうに測ってるってだけなんだ。


原油価格一つで大統領が動く

ウォーレン・モズラー:
で、原油価格が上がれば、直接、食料の供給含めあらゆるものに影響が出る。
そのときはちょうどサプライチェーンの制約も重なってたから、原油価格の高騰と相まって、いろんな物の価格が一斉に上がったんだよね。

でもその後、バイデン大統領がサウジと取引して、「カショギ殺害の件を起訴しないかわりに原油価格を下げてもらう」って取引が成立した。(訳註:2018年に起きたサウジ人記者ジャマル・カショの殺害事件を巡って当時の米・サウジ関係は悪化していた。)
アメリカ製の武器も売ることになって、サウジはロシアから距離を置いて、アメリカに戻ってきたわけさ。

(1期目の時の)トランプ大統領が、サウジに対して「制裁を科すぞ」と脅しをかけたのは、まさにサウジがコロナ禍で原油価格を引き上げなかったからなんだ。サウジはロシアと手を組んで、日量200万バレルの減産に踏み切った。結局のところ、彼らはロシアを巻き込んで減産に合意し、それによって原油価格を引き上げた。

トランプはどうしても譲れなかった。あの時、貿易市場では原油先物価格がマイナスになっていたんだ(2020年4月)。でも実際の現物価格はおそらく1バレル30〜40ドルくらいだったと思う。いずれにせよ、その水準ではアメリカ国内の石油産業が壊滅しかねなかった。だから原油価格はもっと上げる必要があったんだ。

Just spoke to my friend MBS (Crown Prince) of Saudi Arabia, who spoke with President Putin of Russia, & I expect & hope that they will be cutting back approximately 10 Million Barrels, and maybe substantially more which, if it happens, will be GREAT for the oil & gas industry!

— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) April 2, 2020

さっき、オレのダチでサウジ皇太子のMBS(ムハンマド)と話したんだよ。
んでよ、MBSがロシアのプーチン大統領とも話してよ、たぶん1,000万バレルくらい減産しそうなんだ。そうなるといいな!
ひょっとするともっと減らすかもしんねぇぞ。
もしそれが本当に実現したらよ、オレたちの石油・ガス業界にとっちゃグレートだぜ!

トランプ大統領(1期目当時)のツイート(2020年4月2日)

つまりね、アメリカで石油を増産させたければ、価格を上げるしかないってのが現実なんだ。
資本主義の仕組みってそうでしょ?
儲かる価格になれば、企業は掘る気になる。
だから、「もっと掘れ」って言ってるときは、
「もっと高く売れるようにしてくれ」って意味でもあるんだよ。

アダム・バトラー:
なるほど。
つまりそれって、「産業政策(industrial policy)」ってことだよね。

ウォーレン・モズラー:
そうそう、まさにそう。

アダム・バトラー:
オッケー、納得。


財政政策が作る経済のカタチ

[00:44:21]
ウォーレン・モズラー:

全部「産業政策」なんだよ。
だって、そもそも税を強制的に集めてる時点で、"コマンド・エコノミー(統制経済)"の要素があるわけさ。

それに政府が「これが欲しい」って言ったら、売らざるを得ない。売らなきゃ、納税に必要なマネーは手に入らないからね。
そして政府は、自分たちが望むモノに対して、必要なだけの価格を提示できる。
だから相対的な価値(価格)が十分高ければ、みんな政府にモノを売ることになる。

たとえば戦闘機とか戦車とかを政府に売る方が、民間向けに車やバス、肥料を作るよりもずっと簡単にマネーを得られるなら、経済は当然そっちに流れる。
政府は欲しいものを買うために、他の誰よりも高値を付けるからだ。

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予算が付けば、政府はその分野で最大の買い手として事実上価格を支配する(引用元

そういう部分は、もうコマンド・エコノミーそのものなんだよ。
で、それ以外の部分は"マーケット・エコノミー"のままなわけ。

アダム・バトラー:
なるほど。政府が直接支出しているところだけが、コマンド(統制)的になるんだね。

ウォーレン・モズラー:
そうそう、まさにその通り!
だってさ、政府が「欲しい」って言って、手に入れられなかったこと、聞いたことある?
ないでしょ?
政府は、欲しいもんは何でも手に入れるんだよ。


(パート3/5に続く…)

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