国債って何だろう?
前回の漫画は、税金の役割についてとりあげました。
重要な点は、自国通貨を発行する国にとって、税金は資金調達手段ではない、ということです。つまり、税金を徴収せずとも、政府は公共のために必要な分野に支出する(人を雇う、必要な資材を購入する)ことができます。
そうなると、次の疑問が生まれます。

通貨を発行する国は、支出をするのに、元手となる税金も必要なければ、円を借りるという行為(国債を発行する行為)も当然必要ないはずです。
では、国債とは何なんでしょうか?
豪州ニューカッスル大学経済学教授のビル・ミッチェル教授は、政府部門ー非政府部門ゲームと題して、EdXの講座でおもしろい実験をしています。
〇1か月目
1.政府は非政府部門に毎月100ドルの課税義務を課します。
2.公共のためにやるべき仕事はたくさんあると考える政府は、公共セクターで働く非政府部門に対して毎月100ドルの給料を与えます。
3.毎月100ドルを手に入れた非政府部門は、100ドルの納税を行い、これで非政府部門は徴税義務が消えることになります。給料100ドルー納税額100ドル=0ドルであり、一か月目は非政府部門は貯蓄をすることはできません。
〇2カ月目
4.まだまだ公共のためにやるべき仕事がある政府は多くの国民を雇いたいと思い、公共支出の額を120ドルに拡張します。
5.この時納税額が変わらず100ドルであれば、給料120ドルー納税額100ドル=20ドルが非政府部門に残ります。非政府部門は20ドルの黒字になります。(逆に、政府部門は、徴税額100ドルー支出額120ドル=20ドルの赤字となります。)
〇3カ月目
7.2か月目と同様、政府部門は120ドルの支出と100ドルの徴税を続けます。
8.結果、非政府部門の黒字は合計40ドル、政府部門の赤字も合計40ドルになります。
〇4か月目
9.政府は40ドルに貯蓄した人へのご褒美(reward)として、何の金利もつかない現金の代わりに、金利が付く債権を購入する機会を与えるという政策的選択ができます。
10.政府部門は額面40ドルの金額で、利子が付く債権を売り出します。非政府部門は貯蓄の40ドルを政府部門に差し出し、利子が付く国の債権(national bonds)を購入します。このとき、非政府部門が債権を購入することができるのは、過去に(政府支出ー納税額)の貯蓄があったからです。
上記のやりとりを漫画にすると感じ。




ロジックで考えれば、国債というのは利子がつくドル(や円)にすぎない、ということが分かるはずです。政府はお金がないから国債を発行して国民からお金を借りているのではなく、利子が付く債権を国民に与えるということを政策的に選択しているにすぎません。
ステファニーケルトン経済学教授は、著書の中で以下のように記載しています。
それならなぜ政府は借金をする必要があるのか。「必要はない」というのがその答えだ。政府は国民に種類の異なる政府通貨、すなわち多少の金利を払う通貨を提供することを「自ら選択している」のだ。要するに米国債は利子付きの米ドルだ。政府からこの金利付き米ドルを購入するには、まず政府通貨を用意する必要がある。金利付きドルを「黄色いドル」、ふつうのドルを「緑のドル」と呼ぶことにしよう。政府が税収を上回る支出をするとき、それは財政赤字と呼ばれる。この赤字は「緑のドル」の供給を増やす。すでに100年以上にわたり、政府は赤字支出を同額の米国債を売り出すことを選択してきた。つまり5兆ドルの政府支出に対し、税収が4兆ドルしかない場合、アメリカ政府は1兆ドル分の米国債を売り出すわけだ。私たちが政府債務と呼ぶものは、政府が人々に「緑のドル」を金利収入の得られる「黄色いドル」に交換する機会を与えていることにほかならない。
財政赤字の神話 MMT入門
また、「モズラーの名刺」で紹介した投資家のウォレン・モズラーは、「モズラーの名刺」の事例を一歩先に進めて「国債とは何か」「金利とは何か」について説明しています。モズラーの名刺とは、税金の仕組みを使って子供たちに必要な仕事(家事)をさせるとともに、ただの名刺を通貨にしてしまうエピソードでした。
(名刺を配った)親が、(子供たちが集めた)名刺について、金利を付けると申し出る。子供たちは取引のために一定の名刺は手元に持ちたいと願うだろうが、それ以上に保有している名刺については親に預ける(+金利を稼ぐ)という選択をするだろう。このとき、親は子供から名刺を借りなおしている(borrow back)ということもできる。 政府が名刺を借りる理由は、名刺の所有者に対して金利を与えることで、最低金利を支えることだ。親は、貯蓄を推奨するために、より高い金利を支払うと決定するかもしれない。逆に、低い金利は貯蓄を促さないだろう。いずれにせよ、親に貸し出される名刺の数は、親が支出したけれどもまだ納税されていない名刺の数と等しくなる。親は支出を賄うために借りているわけではなく、貯蓄分の名刺に金利を払うことは、(名刺の数で測ることができる)子供の資産を減らす行為ではない。 米国では、FOMCの12のメンバーが翌日物の短期金利を決定している。議会が支出する、徴税する、「借りる(まだ課税されていない支出分に対して利子を払う)」ことを決めることができる一方で、FOMCは(金利を設定することで)通貨の価値を決めることができるのだ。
Soft Currency Economics - Warren Mosler -
上記でまとめると、以下のようになると思います。
〇自国通貨を発行する政府は、資金調達するために、国債を発行する必要はない。
〇国債を発行する行為は、国民が(利子がつかない普通の通貨の代わりに)利子付きの通貨(ドルや円)を手に入れる機会を政府が与えることを自ら選択しているということ。
〇利子付きの通貨、国債の金利が市場の中の最低金利の水準になる。
どうでしょう?
国債の正体が、少なくとも、通貨を発行できる政府の資金調達を賄うものではない、ということが分かっていただけたのではないでしょうか。
さて、次回は、「国債は利子付きの通貨である」ということを象徴的に表すエピソードを取り上げたいと思います。米国政府やオーストラリア政府はかつて見事に財政黒字(政府の税収が支出を上回る状態)を達成し、国債発行額を減少させることに成功したことがありました。しかし、強烈な自己矛盾に苦しみ、結局国債を発行し続けることを彼らは選びました。それぞれの政府の不思議な行動に注目したいと思います。
タイトルは、「国の借金」が消えると困る政府たち。7/8に更新です。
【参考リンク】
↑ビルミッチェル教授のEdX講座リンク(今はもう開講されていません。大変分かりやすいコンテンツだったのでとても残念です・・・)
0 件のコメント:
コメントを投稿