2025年3月13日木曜日

財務省解体デモは問題提起をしている反面、事実の正確な分析や認識に問題がある。冷静な議論が必要だ。(森信茂樹) - エキスパート - Yahoo!ニュース

財務省解体デモは問題提起をしている反面、事実の正確な分析や認識に問題がある。冷静な議論が必要だ。(森信茂樹) - エキスパート - Yahoo!ニュース

財務省解体デモは問題提起をしている反面、事実の正確な分析や認識に問題がある。冷静な議論が必要だ。

(写真:西村尚己/アフロ)

デモをすることは憲法に保障された国民の権利である。大きな混乱を招かない限り、不満や主張を述べ、マスコミで取り上げられることにより主張が広がることは意味がある。

一方で、デモが事実認識と異なっていた場合など、財務省で働く職員の士気の低下につながる。そうでなくても減少している国家公務員、さらには財務省の志望者の減少につながれば、国にとっても大きな損失と思う。以下、財務省OBとして思うところを書いてみたい。

デモの主張は、「減税」や「積極財政主義への転換」などで、それに反対する財務省は「国民の敵なので解体すべきだ」ということのようだ。

デモの発端は、国民民主党の主張する「所得103万円の壁」の178万円までの引上げに財務省が反対したことだ。反対する理由は、「財源問題」と「税の公平性」という2つだ。

消費税率に換算して2-3%、7-8兆円の恒久財源を失えば、今マーケットで生じている国際価格の下落・金利の急上昇にさらに拍車をかけ、国民生活に悪影響が出るというのが財源問題だ。

10年債の金利は昨年末には1.1%だったが、先週は1.6%に迫った。日本銀行が金融正常化をすすめ、国債買入れ額を減少させている中で、国債を買う内外の投資家は先細りつつある。わが国国債の格付けを引き下げるという動きもあり、7-8兆円の国の追加発行となれば、国債価格は大幅に下落しその分金利は上昇する。

金利の更なる上昇は、民間企業の資金調達に大きな影響を与える。個人にとっても、住宅ローン金利が上がり、生活に大きな悪影響を与える。財務省が大幅減税に反対した理由は、「財政への信認」をつなぎとめ、投資家に日本国の借金である国債を張っていただくことによって、国民生活に不測の事態が生じないようにするという判断からだと思われる。

現実の事例がある。2022年9月に英国のトラス首相が打ち出した「財源なき減税策」が、株安・国債安(金利上昇)・英ポンド安などの金融市場の混乱を招き、退陣したトラス・ショックで、教訓にする必要がある。

玉木代表はネットテレビで「一億円の壁」、つまり所得一億円を超えると、金融所得が15%の分離課税となっているために、金融所得の多い高所得者の実効性率が下がっていくという問題の見直しに触れたが、すぐに引っ込めた。国民民主党の支持者に金融所得を含め1億円の申告所得を得ている者(約2万人)が多くいるとは考えられず、この見直しに手を付けて財源を確保しながら103万円の壁の引上げを主張していたなら、自民党も財務省もそれほど反対派できなかっただろう。

国民民主党の公約(2024年12月24日)「令和7年度税制改革と財源についての考え方」には、「5.行き過ぎた格差を是正する『金融所得課税改革』」 として、「行き過ぎた格差を是正し、格差の固定化を防止するため、金融所得課税の強化を行うとともに、NISA、積立NISA等を拡大します」と明記されている。今からでも遅くはない。国民民主党が本当に庶民の見方かどうかを判断する基準でもある。

もう一つ大きな問題は、178万円への非課税限度額の引上げが格差拡大を招くという税制の公平性の問題だ。筆者はこちらがもっと報じられるべきだと考えている。

所得制限を付けないままの基礎控除の引き上げは高所得者ほど恩恵が大きく、税の所得再分配機能を損ない格差の拡大を招く。国民民主党は所得制限のない規則所の引上げを最後まで主張したが、アメリカの人的控除やイギリスの基礎控除では、控除額に上限を設け、所得の増加に 応じて控除額を逓減・消失させる方式を採用している。わが国も2018年度税制改正で、基礎控除について所得金額2400万円から逓減し2500万円で消失する制度を導入しており、高所得者への減税の波及を防ぎ所得再分配機能を確保するには所得制限はやむを得ない。

さらに、憲法25条の生存権の議論も行われた。「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を持ちだして、所得制限なしの178万円への控除引上げ主張の根拠にした。

103万円というのは基礎控除の48万円とサラリーマンの概算経費である給与所得控除の最低保障55万円を合計したものであるが、この水準は生存権と関連したものではない。サラリーマンの概算経費である給与所得控除は、所得を得るために必要な支出であって、これを含めて生存権というのは無理がある。

憲法25条に規定する生存権と直接関連するのは、歳出措置である生活保護で、基礎控除と給与所得控除の合計額と連動してはいない。

筆者は、生活保障の水準を決めるのは「非課税所得」ではなく「可処分所得」の水準だと考える。したがって、所得控除という方式ではなく税額控除により最低限の可処分所得を保証する仕組みで対応することが望ましい。それが先進諸国で導入している給付付き税額控除だ。

財務省デモの主張に、「国民から選ばれていない財務省が政治を無視して暴走している」という批判もある。筆者はこれは政治が責任を取らないことの裏返しだと考えている。

玉木代表は、「財務省岩論」を述べている。「政治の力が強い時、水位が高い時は岩(財務省のこと)は見えず淡々と仕事しているが、政治が調整力を失ってくると水位が下がって岩(財務省)が見え始める」と。これが今日の状況で、財務省OBである玉木代表は熟知しているのである。つまり財務省最強論というのは、政治の力が落ちていることの裏返しの現象ととらえるべきだ。

財務省の力が弱っている証左は、昨年の補正予算編成に如実に表れている。

石破政権発足直後に総選挙に突入したが、選挙期間中に石破首相は突然、「昨年の規模(国費13兆円、事業総額37兆円)を上回る補正予算」を表明した。需給ギャップがほぼ解消されている状況で、巨額の補正予算を組む根拠は乏しい。人手不足などのボトルネックがあるのでインフレを加速する懸念もエコノミストの間で指摘された。

財務省としては、政治決断で予算規模が明示された以上、補正予算編成の作業を開始せざるを得ない。「EBPMに基づく政策立案(証拠に基づく政策立案)」「ワーズスペンディング」と正論を言っていては予算編成が間に合わなくなり責任問題になる。

そこで、規模ありきの補正予算が組まれた。無駄な出費は抑制したい財務省としては、一部を「(いずれ取り崩すこともある)基金に積み立てておく」ということでわずかな抵抗をしたのではないか。

この結果、8,000億円程度の黒字が見込まれていた2025年度のプライマリーバランス(以下PB)は、未達に終わった。

このように、財務省が政治を凌駕する権限を持つとされた理由である予算の最終責任を負う、という理由・根拠も昔の話になりつつある。もっとも、財務省が政治を凌駕する力を持っていたなら、いまの主要国で断トツに多いGDPの2.6倍を超える政府債務(グロスベース、ネットベースでも1.5倍と先進国最悪)などはないありえないだろう。

デモの「緊縮財政が国を貧しくした」という意見にも違和感を覚える。

失われた30年間、政府(財務省など)は、「放漫財政」により、減税や公共事業の追加というカンフル剤を打ち続けてきた。結果、起業家精神が失われ、経済体質が弱体化した。財政政策は、景気の悪化を食い止めるだけの役割で、民間の成長戦略がなければ経済は発展していかない。この間企業は、賃上げを渋り、投資をせず、内部留保だけを積み増してきた。残ったのが先進国最悪でGDPの2.5倍近い債務残高だ。

このように、「財務省解体論」の理由については、きちんとしたデータに基づいた議論が必要だ。単に解体しても、別の組織が歳入・歳出の予算権を持ち、日本の信認が損なわれないよう予算編成が行われることには変わりない。

衆議院について参議院でも予算修正が行われ、財務省職員の残業時間は飛躍的に増え、働き方改革など無関係な状況だ。デモ参加者の皆さんは、もう一度現在生じている状況について、冷静に考えていただきたい。

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